十話 お題:恩着せがましい 縛り:ワンマンカー、仕える、寝技、ダブル幅

 勤めている生地屋にダブル幅というあだ名の同僚がいる。身長がダブル幅(約140cm)ほどしかない小柄な女性なのだが、自分の背が低いのは河童のせいだ、と言うので詳しい話を聞いてみた。なんでもその河童と会ったのは彼女の祖父で、若い頃はワンマンカーになる前のバスの運転手をしていて、また日本人離れして背が大きくずいぶん女性にもてたそうだ。そんな彼女の祖父が河童に会ったのは実家の側の川の川縁で、会うなりこんなことを言われたそうだ。

「自分はヒダ様に仕える者で、人間に会う機会は中々ない、ここは一つ相撲でも取ろうではないか」

 体は大きいが柔道がそれほど強くなかった彼女の祖父は不安に思ったが、河童は想像していたよりも大分弱かったらしく、転がして寝技をかけてやるとすぐに逃げていった。その後しばらく河童は姿を見せなかったが、彼女の祖父が川で釣りをしていて誤って川に落ちた時にまた現れたという。落ちた川は浅い上流れも緩やかですぐに岸に上がろうと思っていると何者かに引き上げられ、見ると相撲で勝負をした河童だったそうだ。河童は得意げな顔で、

「助けてやったのだから礼をしろ」

 と言ってきた。彼女の祖父は内心納得が行かなかったが、しかし助けられたことに変わりはないので、

「何が欲しい」

 と聞くだけ聞いてみることにした。すると河童は、

「お前は背丈が大きいから、子も孫も背丈は大きくなろう、子々孫々背丈を分けてもらうことにしよう」

 そう言って河童は川に飛び込んだという。なんでも身長の縮み方は段々ひどくなっているそうで、自分の子供はどれだけ小さくなるのかと彼女は内心気が気でないという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る