第10話 竜姫の帰宅

 部屋の外で待っていると、メリーヌが部屋から出てきた。


「……いきましょう」


 メリーヌは俺の方を見ずに言った。

俺とメリーヌは会話が無いまま宿の外に出た。

 俺は何度か彼女に話しかけようとしたが、そのたび拒絶されたらという考えが頭をよぎり、結局話しかけられずにいた。


「……ねぇ」

「なんだ!!」


 俺は自分でも食いつき気味かと思うくらいに反応しておいた。

 ここで、薄い反応を返すとこの気まずい空気が続きそうで。

メリーヌは少し引くような顔をしたが、それも一瞬の事で直ぐに表情を戻した。

 多分、俺の意図を察してくれたんだろう。


「お腹、すいてない?」


 メリーヌは少し顔を逸らしながら聞いて来た。

彼女も気まずさは感じていたらしい。

 俺の空腹は二の次でメリーヌも、この気まずい空気をどうにかしたかったんだろう。


「ああ、それなら宿屋のお婆さんが用意してくれるって」


 色々あったせいで、伝えるのをすっかり忘れていた。

 メリーヌは俺の前ませ行くとクルリと回って俺と向かい合った。

スカートと彼女の銀髪が一瞬送れて回転についていく。


「オススメの店があるのよ」


 メリーヌは行くのが決定事項とでも言わんばかりに俺の腕を引いていく。

俺は一瞬、バランスを崩しかけながらもメリーヌについていった。

 自分でも、頬が緩むのを感じる。

 きっと、俺はメリーヌとのこんな関係を心地よく思っているのだろう。

 破天荒な彼女に引っ張られていく事も。


※※※※※


 俺は手元にあるパンを齧りながら歩いている。

 これは、さっきメリーヌが買ってくれた物で、バケット見たいなパンに切れ目を入れて、そこに肉や野菜を詰め込んでいる。

 単純な料理だがこれが中々に上手い。

横では、メリーヌが俺と同じようにパンを食べながら歩いている。

 本当はお行儀が悪い行為のはずなんだが、彼女がやると下品さは一切感じられないから不思議だ。

 それは、メリーヌの容姿もあるのだろう。

だが、それ以外にも上手く言い表せない何かが彼女にはある。

 王族の気品というやつだろうか?。


「さっきは、ごめんなさい」


 メリーヌが急に謝ってきた。

俺は何のことか解らず呆ける。


「痛かったでしょ」


 ああ、朝の事か。

確かにあの拳は効いた。


「昨日は酔っていて、貴方を起こすのを忘れていて」


メリーヌにそんな事が有るのが以外で、俺はついしげしげと彼女の顔を眺める。

 すると、メリーヌは急に赤面しだした。

 俺も釣られて顔が赤くなる。

俺達はそんなお互いが可笑しくて、二人同時に吹き出した。

 そうして、しばらく笑いあった後、俺達はどちらとも無く歩き出した、

 俺達の間に会話は特に無かったがさっきまでの気まずさは消えていた。


※※※※※


 俺とメリーヌは太陽が真上に昇るころ、二人で街道を馬に乗って走っていた。

メリーヌが前に座って馬の手綱をにぎり、俺は彼女の腰に手を回して彼女にしがみ付いている。

 最初の内はメリーヌに気を使って、緩めに持っていたが、何度か馬から振り落とされそうになると、

 そんな、余裕は無くなり今はメリーヌの腰に回した手に普通に力を入れていた。


「もう少し、速度を落としてくれ」

「そしたら、今日中に城に着かなくなるわよ」


さっきから、何度も同じやり取りをしているウチに流石の俺でも築く。

メリーヌは俺の反応を見て楽しんでいる。

俺が何か文句を言ってやろうと口を開けた瞬間。

メリーヌが急に馬を止める。

俺は完成の法則に従ってメリーヌの後頭部にぶつかりそうになった。


「いきなり、止まるなよ」


これには、流石の俺も抗議の声を上げた。

だが、メリーヌは俺の抗議を無視して馬から下りる。

俺は更に文句を言おうとしたが、彼女が真剣な雰囲気を纏っているのを感じて止めた。


「あなた、魔物に好かれてでもいるの?」


 俺は彼女の見ている方向を見た。

すると、そこには巨大な蛇がいた。

 長さは三十メートル程だろうか。

だが、向こうの蛇より圧倒的に太い。

 もし、あれを輪切りにしたなら直径四十メートルはあるんじゃ無いだろうか?


「馬からはなれて、遣られたら厄介よ」


 俺はメリーヌの言葉に素直に従って馬から距離を取った。

大蛇の視線が俺のを追いかけてくる。

 どうやら、大蛇の狙いは俺のようだ。


「盟約を履行し来たれ『ファフニール』」


 大蛇の反対側にいる、メリーヌが昨日のように眷族を召喚した。

光とともに、昨日城の中で、有ったメイドのファニーが姿を現した。

 ファフニールを縮めてファニーか。


「ファニー、アイツを」


 ファニーは大蛇に手を向けた。

 その、掌に光が集まり球を作る。

最初は小さかった球が徐々に大きくなりバスケットボール程度の大きさにまでなった。

 ファニーの手から光が放たれて大蛇の首辺りに当たった。

 轟音とともに爆発が起こって煙が立ち上る。

大した、威力だな。

 あの、大蛇もこれはただでは済まないだろう。

 今後はこの子を怒らせ無いように気お付けよう。


「ミレス、避けなさい」


 煙の向こうからメリーヌの声が聞こえた。

 俺は何のことか解らず何の反応も出来なかった。

煙の中から大蛇の頭が現れ、俺の方に飛んできた。

 俺は、あっさりと弾き飛ばせる。


「シャー」


大蛇の鱗は少し焦げているが、それ以外特に被害はなさそうだ。

昨日も似たような事があったような。

そうだ、俺はあの時知らない言葉を言って。


「プレイト ウィ ニノ フォレシェ プラド」


俺は立ち上がりながら、あの時と同じ言葉を紡いだ。

 ゾッワと急に体中に悪寒が走る。

 視界がグニャと歪み、脳内に直接ノイズが走った。

 あの時と同じだ。

いや、あの時より症状が強くなっている。

 大蛇が口から黒い霧を出しながら俺に噛み付こうと突進してくる。

俺はその顔を全力で殴りつけた。

 手には何の感覚も無かった、ただ大蛇があの時の狼のように白い粉になって崩れる。


「ミレス」


 メリーヌがこっちに走って、来るのが見えた。

俺はメリーヌの方に歩こうとして、急にバランスを崩した。

 だめだ、意識が…薄れ…て。

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