第9話 宿にて

 太陽が沈みきり、星が見えるようになったころ俺はメリーヌに肩を貸されながら酒場を出た。

 酔いで足元が危うく、一人ではとても歩けない。

 体温が上がっていて、冷たい夜風が気持ちいい。

そんな、状態だが自分でも驚いたことに意識はハッキリしている。


「少し、飲ませすぎたかしら」


 隣でそんな事を言っている、メリーヌの足取りはしっかりしている。

顔も、少し赤いような気もするが殆ど、変わった様子は無い。

 メリーヌは俺以上に飲んでいたはずだ。

果たして、俺が酒に弱いのかメリーヌが強いのか。


「……帰りは歩ける自信ないぞ」


この状態では町の外まで歩くのですら難儀しそうだ。

城まで、帰るのまず無理だろう。


「そう、なら宿を取りましょう」

「いいのか、仮にもお姫様…」

「ストップ」


 メリーヌは俺が言い終わる前に俺の口指を当てて言葉を途中で止めてきた。

そして、周りを素早く確認し、誰も俺達の会話を意識していなかったのを見ると、安堵の息を吐いた。

 なるほど、お忍びだからばれちゃ困るって訳か。


「大丈夫よ、いつもの事だから」


 このお姫様は、お転婆であせられるようだ。

城の皆様も、さぞかし苦労されている事だろう。


「……まさか、脱出路から出てきたのは」

「ええ、見つかると止められるからよ」


もう何も言うまい。


「行きましょう」


 話は終わりとばかりに、メリーヌは俺の腕を引っ張っていく。

よいで、殆ど歩けない俺はメリーヌに宿まで引きずられていった。


※※※※※


 宿屋に入ると、受付にはお婆さんが座っていた。

普通の人間と同じに見えるが、この人も魔族なんだろうか?


「部屋を取りたいんだけど……」


メリーヌがおばあさんに言った。


「生憎、空き部屋はひとつしかないよ」

「そこで言いわ」


おばあさんは、カウンターに鍵を置いた。


「二回の一番奥の部屋だよ」

「ありがとう」


 メリーヌは鍵を受け取ると、階段を上った。

俺も、その後ろについて行く。

 一段、上る旅にきしむ木製の階段を上がり。

 窓の無い廊下を奥まで進む。

そして、メリーヌが部屋の鍵を開け、俺達は部屋の中に入った。

 俺は迷わず目に入ったベットに横たわった。

 そうしている内に俺はある問題に気がついた。


「ベットが一つしかない」

「そうね」


 そう、この部屋にはベットが一つしか無かった。

流石に二人仲良く、同じベットで寝ると言うわけにも行かない。

 仕方が無いな。


「俺は床で寝るよ」


 流石にメリーヌを床で寝かして、自分だけベットで寝るとさぞかし夢見が悪そうだ。

いや、そもそもそっちが気になって寝れないかもしれない。

 女子を床に寝かして安眠できるほど図太い神経の持ち主ではない以上、ここは譲っておくのが俺にとってもいいだろう。


「そうね、お言葉に甘えさせて貰うわ」


メリーヌは頷きながら言った。


「でも、私はこれから飲み直してくるから、私が帰ってくるまでは、貴方がベットで寝ておきなさい」


 メリーヌは、部屋の扉を開けると何処かに出て行った。

俺は今疲れている上に酔っている。

 果たして、こんな状態でメリーヌが帰ってきた時に起きれるのだろうか?

だが、メリーヌの行為を無駄にするのも申し訳ない。

……起きられ無かったらその時はその時だ、

俺は布団に潜り込んだ。

 そう言えば、メリーヌって酒に強いのかな。

 寝ぼけた頭でそんな事を考えたのは記憶に残っている。


※※※※※


メリーヌが部屋を出て約二時間ほど。

 彼女は部屋のドアを開けて部屋に入った。

 部屋のベットでは彼女が『ミレス』と名付けた少年が眠りこけている。

メリーヌは一見、正常に見えるが良く見ると足元がふらついていた。

 目も何処かボーとしている。

彼女は酔っても解りにくいが、完全に出来上がっていた。

 酒に強い彼女をしても、機嫌が良いままに飲みすぎた結果だた。

 彼女はベットに腰を下ろす。

メリーヌは少年の手を握った。

 そこに、それがある事を確かめでもするように。

そして、彼女は自分の耳をそっと彼の胸に押し当てた。

 窓から、差し込んだ月明かりだけが二人を照らしていた。

 どの位相していただろうか、彼女は静かに立ち上がった。

そして、着ていた服を脱ぐとベットに潜り込んだ。


※※※※※


 朝起きるとメリーヌの顔が直ぐ近くにあった。

俺と、メリーヌは同じベットで寝ていた。

 ここで、驚いて声を出さなかったのは我ながらよくやったと思う。


「……酒臭い」


 メリーヌから酒のにおいがした。

これは、大方俺を起こすのを忘れて、そのままベットに入っていたんだろう。

 俺はため息を付きながら、ベットから体を起こした。

 すると、体にかけていた毛布が捲れメリーヌの体が露になる。

なんと、メリーヌは下着しか着けていなかった。

 これは、色々と不味い。

誰かに見られたら誤解されるし、メリーヌが起きでもしたら、間違いなく気まずくなる。

 俺はベットから出ようとしたが二日酔いのせいで頭がふらついてベットに倒れた。


「うん・・・」


 それに、反応してメリーヌがベットの上で体をよじった。

俺は反射的に息を止めて固まる。

幸運な事にメリーヌは起きてこ無かった。

 俺は再び体を起こした。

頭がクラッとして、またベットの上に倒れこみそうに成るが何とか止まる。

俺はそのままの体制で止まっていると、扉が二回ノックされた。

 これは答えるべきだろうか。

だが、大きな声を出すとメリーヌが起きてしまうかもしれない。

 俺が、答える事が出来すにいるとお婆さんが部屋の扉お開けてきた。


「お客さん、朝食はどうするんだい? 一時間ほどまってもえれば」


 お婆さんは俺達を見て固まった。

これは、完全に誤解されたやつですわ。

 お婆さんは言葉を続けた。


「ウチでも用意できるけど?」

「連れが起きてから考えますっ」


 俺はあわてて、大きな声を出してしまった。

お婆ちゃんが『そうかい』と言って扉を閉める。


「もう……朝?」


 ヤバイ、メリーヌが起きた。

俺はなすすべが無く固まる。


「…おはよう、ミレス」


 メリーヌが完全に目を覚ました。

こんな状態でも挨拶を返すのは親の教育の賜物だろうか。


「おはようメリーヌ」


 俺はメリーヌのあられもない姿を見て思わず目をそらす。

 それで、メリーヌは自分の状態に気づいたらしい。

顔を真っ赤にしている。


「いや、今のは不可抗力で……」

「いいから、出て行って!!」


俺は朝から、メリーヌのこぶしを頂戴した。

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