第8話 魔族達の町

森を抜け更に歩く事暫く。

もう日が傾き始めたころ、俺達は町に付いた。


「到着よ」


 メリーヌは整備されていない道を歩いたのに、まだまだ元気そうだった。

彼女は軽い足取りで、町に入っていく。

俺は正直ヘトヘトだが、彼女を追いかけた。

 ファンタジーゲームで有りそうな町並みだが、店番をしているのはどれも魔族だ。

 八百屋の軒先でイスに座りながら寝ているリザードマン。

 魚屋で威勢が言い掛け声で客を呼び込むゴブリン。

 牛の皮で出来たエプロンをかけて、肉屋の店番をしているオーク。


「あれ、人間の肉かな?」

「そんな、分けないでしょ

人間を食べる魔族なんて少数派よ」


 ああ、そうなんだ。

オークは人の肉を食べるイメージがあったが俺の偏見だったらしい。


「ああ、けど兄ちゃんはそこの姉ちゃんに食われかかってるじゃねぇか」


 俺達の話が聞こえてきたのか、肉屋オークが人懐っこい笑顔を浮かべて、絡んできた。

この、オークは俺がメリーヌにたらし込まれて財布にされていると勘違いしているようだ。

 まあ、メリーヌならそういった事も出来るだろうが、魔王の娘である彼女はそんな事する必要は無いだろう。


「あら、お金なら私の方が持っているわ」

「こんな、べっぴんさんに養って貰える、なんて男冥利に尽きるな」


 メリーヌの発言はオークに別の誤解を与えたようだ。

俺はメリーヌに養って貰っているわけじゃない。

 まあ、彼女の父親に養って貰っているから似たようなものかもしれないが。


「まあ、お幸せにな」


 俺達を見るオークのおっちゃんの目は完全に若いカップルを見守る大人の目だった。

それを、見たメリーヌが何か企む様笑顔を浮かべる。

 メリーヌは俺の耳元に口を寄せると、そっとささやいた。


「ミレス、手を振りほどかないでね」


 そして、メリーヌは俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

彼女の胸にひじに何か柔らかい感覚が……。

 俺をからかう為にやってるのかこれ?


「あの、メリーヌさん?」

「あら、どうしたの?」

「胸が……」


 俺が言った瞬間、メリーヌの顔が赤くなる。

わざとでは無かったらしい。


「離したほうが……」

「ここではなしたら格好がつかなくなるわ」


 メリーヌは意地を張るように更に腕に力を入れてくる。

案外、彼女は意地っ張りなのかもしれない。

 ただ、周りからは可愛らしいだの、初々しいだのと言った声が俺たちまで聞こえてきて、既に格好はついていなかった。


※※※※※


 それから、俺達は腕はそのまま町の中を歩いていた。

さっきの、話はお互いに触れていない。

 異国どころか、異世界なので目に入るものが珍しくて、俺はついつい立ち止まってみてしまう。

 そのたびに、メリーヌが『欲しいなら買ってあげるわよ』と言ってくれるのが、申し訳なくなる。

なりより、普通は俺がメリーヌに言うべき台詞であって、男としてなさか無かった。


「遠慮なんて、しなくていいのよ」

ロレーヌが彼女にしては珍しい純粋な笑顔で言ってくる。


それが、更に俺を情けなくさせた。

 急に俺の腹から音がなった。

そう言えば、朝から何も食べていない。

 

「そうね、夕食にしましょうか。

オススメの店があるのよ」


 メリーヌは微笑みながら言った。

その表情は日本の同年代の女の子と変わらなかった。

だが、彼女の美貌でいざ正面からされるととても直視できなかった。

 俺は彼女に腕を惹かれるまま、あるいて、ある酒場に入った。

 

 酒場の中は、それほど込んでいなかった。

時間は多分七時くらい。

 本来ならこの手の店が込み始める時間のはずだ。

 ここの、味は果たして大丈夫なんだろうか?


「ここが、込んでいないのは少し値段が高いからよ」

「いいのか、俺一文無しだぞ」

「もちろん、お金は出すわ。

だから、安心して食べて」


 メリーヌは近くに来た看板娘らしき少女を呼び止めた。

看板娘も、人間ではなく下半身が蜘蛛のモンスター、アラクネだった。


「オススメを適当に頼むけどいい?」


 メリーヌが俺に聞いて来た。

俺は言葉にはせずに頷く事で肯定の意を返した。

メリーヌはそれを確認すると看板娘にメニューを指差しながら幾つか注文をする。

 そして、十分ほどしただろうか、料理が運ばれてきた。

メニューは。パンにスープとサラダ、鶏らしき鳥の丸焼き。

俺とメリーヌの前に一個ずつガラスのワイングラスが置かれた。

 そして、机の中央にはガラスのビンが置かれる。

メリーヌはまず俺のグラスを手に取ると、ビンの中身を注ぎ込む。

 彼女は同じように自分のグラスに中の飲み物を入れるた。


「乾杯」


 メリーヌはそう言って自分のグラスをもって此方に差し出してきた。


「乾杯」


 俺は軽く、グラスを当てる。

グラスが済んだ音を立てた。

 メリーヌは満足げに笑うと、グラスの中を一気に飲み干した。

 

 「……どうしたの?、 お酒は苦手?」


一口も飲まない俺にメリーヌが聞いて来た。

やっぱり、酒だよなこれ。


「苦手も何も飲んだ事がない」


 俺は生憎、飲酒の経験は無い。

はたして、飲んだらどんな醜態をさらすか解らないし、正直怖くもある。


「あら、そう」


メリーヌが少し残念そうな顔をする。

俺は気まずくなって言った。


「これが、人生発だな」


 俺は一気にグラスの中を飲み干した。

喉が厚くなり、頭が少しふらつく。

 メリーヌが嬉しそうな顔になって、俺のグラスに酒を注ぐ。

俺は一杯目のような警戒心は無く、二杯目の酒を飲んだ。


「なあ、メリーヌはどんな魔族なんだ?」


 酒は人を饒舌にするらしい。

俺は自然に普段は聞かないような突っ込んだ事を聞いていた。

まあ、気になっていた事だが。


「悪魔とドラゴンのハーフよ」


 彼女はそう言ってテーブルの上の自分の手を見た。

俺も釣られて彼女の腕を見る。

メリーヌの腕が一種んで人間の物から銀色の鱗に包まれたドラゴンのそれに変わる。

 鱗の色は彼女の神と同じで本物の銀にまったく見劣りしない。


「触ってみてもいいか?」

「ええ、どうぞ」


 俺はメリーヌの腕に触れた。

体温は人間と殆ど変わらない。

 ただ、鱗は表面はつるつるしているがずいぶんと丈夫そうだ。

手の甲は鱗で覆われているが、手の平は人間と殆ど変わらなかった。


「貴方の種族は」


メリーヌが手を人間の物に戻して聞いて来た。


「解らないんだ」

「そう」


 種族の話は、それっきりにして俺たちは、軽い雑談と酒と夕食を楽しんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る