第4話 short time no see

「何処だ、ここ?」


 俺は体を起こし、まだ眠気でぼやける頭を振りながら言った。

何だか、変な夢を見たような気がする。

全く知らないはずなのに、何処か懐かしいそんな夢。

 夢の中の記憶はもう殆ど残って居ないが、フォルネウスが出てきたような気もする。

まあ、何がともあれ今はそれより重要なことがある。


「何処だここ?」


 俺は一字一句違わずに先ほどと同じ言葉を繰り返した。

こんな場所は俺は来た事もない。

 絵画のような絵が一面に描かれた高い天井に、そこから釣られたシャンデリア。

もちろん、我が家の天井ではない。

 俺は、こんな所に住めるほどいい暮らしをしていない。


「何処だここ?」


俺はとりあえず立ち上がった。

 俺がさっきまで、寝転がっていた床は大理石で白地の壁には複雑な模様が書かれている。

ここは、まるで何処かの城のダンスホールみたいだ。


「ずいぶんと、早い再開に成ったな」


気づけば俺の目の前に、フォルネウスが立っていた。

 さっきまで、ここには誰も居なかったはずだ。

いまさら驚くことでもないか、魔王を名乗る位だからこの程度の芸当は出来ても別に不思議ではない。

 その表情は何処か困ったようにも見える。


「さて、どうしたものか?」


そうか、俺は……


「死んだのか?」


俺はボソリと呟いた。


「ああ、確かに」


フォルネウスに向けたものでは無かったが彼は律儀にも答えてくれた。


「……そうか」


俺は色々な思いがあふれて、何も言えなかった。


「ああ、そこで問題になるのは貴君の魂だ」


「それは、死後に……」


 フォルネウスは俺が契約書の内容を言おうとすると首を振った。

なんだ、契約書の不備か?


「ところが、私は貴君の願いを叶えていない

そして、この様な事態に成った時の事は契約書に書いていなかった」


それは、つまり……


「契約は破棄された?」


フォルネウスは、また首を横に振った。


「いや、この様な事は初めてで。

私も如何すれば良いのか解らんのだ」


 いかにも、途方に暮れていますと言った感じのフォルネウスを見て、俺もまた自分の行く末に不安を感じていた。

本当にこれから俺はどうなるんだろう?


「本来、契約が成立してたらどうなったんだ?」


フォルネウスは頭痛を堪える様にこめかみを揉みながら言ってきた。


「ああ、私の手下として魔族に転生するはずだ」


 魔族か、悪魔とか吸血鬼に転生って厨二心を擽られる。

あれ、けどオークとかゴブリンも魔族に含まれるんだよな?

 そう、考えると俺の今の見た目が気になってきた。

俺は、辺りに鏡かそれの変わりになる物がないか見渡してみたが生憎見つからなかった。


「ああ、鏡か」


 フォルネウスが腕を一振りすると俺の目の前に鏡が現れた。

気を利かせてくれたらしい。

 見かけによらずいい人だ。

いや、いい悪魔と言うべきなのか?


「人間だな」


鏡の中に写っていた俺はさっきまでと何等変わりは無かった。

 目の下にクマが出来ているのが変化らしい変化かもしれない。

あと、朝整えたヘアスタイルが崩れてしまっている。

ただ、それ以外に特に変わった部分は無い。

 俺は半分安心して、もう半分は落胆した。


「いや、貴君が人間である事はありえない」


フォルネウスがハッキリと言い切る。


「何か根拠はあるのか?」


これだけ、自信満々に言っているのだから、何か根拠はあるのだろう。


「人間の魂では、転生に耐え切れない。

最も、天使の祝福を受けたものなら話は別だがな」


 当然だが俺の知り合いに天使なんかいない。

なら、俺の魂は既に人間のものでは無いと考えるのが妥当な訳か。


「人型の魔族など正しく五万といる

貴君がどんな魔族であるかは自ずと解るだろう」


魔王だけあってフォルネスの言葉には、何だか人にそう思わせる何かがあった。


「何がともあれ、私が原因で貴君がここに来ることになったのだ、面倒は見よう

暫く、この魔王城で暮すが良い」


 本当に良い人だった。

いや、良い悪魔のほうが正しいのかな?


「今日は休むといい」


俺はお言葉に甘えることにした。


※※※※※


 俺はスケルトンに案内されて魔王城の中を歩いていた。

最初は案内役のスケルトンが怖かったが、今はこの暗闇の中一人にされる方がよっぽど怖い。

 魔王城に明かりは無く、スケルトンの持つランプのみがこの廊下にある唯一の光源だった。


「こちらです」


 案内役のスケルトンがある扉の前で立ち止まって言った。

スケルトンは俺が自分でドアを開けようとする前に自分からドアを開けてくれる。


「何か御用が有りましたらお申し付けください」


 スケルトンは丁寧に腰を曲げながら言った。

こいつ、一流のホテルでも働けるのではないだろうか?

 まあ、一流のホテルなんて泊まったこと無いけど。


「名前は?」


流石にスケルトンと呼ぶのは失礼だろう。


「はい、ジェームズと申します」


 案外、普通だった。

アメリカ辺りにゴロゴロいそうだ。


「それでは」


 ジェームズは一礼して扉を閉めた。

俺は、さっきまで寝ていたはずなのに疲れが急に押し寄せてくる。

 俺は布団に入り直ぐに意識を手放した。

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