第2話 無意味な契約
俺はフォルネウスに愛想笑いを浮かべる。
「さあ、貴君の願いを言うがいい」
そう言ったフォルネウスは魔王の名前に恥じない、威厳を感じさせた。
俺は他人から見たらたぶんバカバカらしく、願うまでも無い俺の願いを口に出した。
「俺は____」
フォルネウスさんも一瞬あっけに取られたような表情をする。
フォルネウスは一度目を閉じた。
そして、開いたときには全てを悟ったような表情をしていた。
悪魔の力か何かで俺の過去を見たのかもしれない。
フォルネウスは重々しく言った。
「貴君の願いは聞き届けた。
この私、フォルネウスは
俺は自分の名前が名乗っていないのに知られていることには驚かなかった。
もう色々起きすぎて、だんだん感覚が麻痺してきた。
「ただし貴君の死後、その魂はこの私フォルネウスのものとなる」
フォルネウスは『それでもいいか?』とでもたずねる様に俺の目を覗き込んでくる。
俺は何も言わずに頷く事で、それを肯定した。
「そうか、ならば契約だ」
フォルネウスさんの手にはいつの間にか、羊皮紙が握られている。
そこには、こんな事が書かれていた。
1魔王フォルネウスは夏見慶の願いを契約に基いてかなえる。
2夏見慶は、その代償として魔王フォルネウスに死後、魂を差し出す。
また、夏見慶の死後の一切の権利は魔王フォルネウスに移行される。
3万が一、魔王フォルネウスが死亡等によって、夏実慶の願いをかなえる事が不可能になった場合は、
契約は破棄される。
4また、魔王フォルネウスが夏見慶の願いを叶えた後に、夏見慶の魂を受け取る事が不可能ならば、
その権利は、魔王フォルネウスの娘に委譲される。
5以上の契約はルキフェルの名に宣誓される物で、これをたがえる事は許されない。
「解ったか?」
フォルネウスが最終確認も兼ねているのか、話す速度を若干落として尋ねてきた。
ここに、書いて有る事を要約するとこうだ。
仕事をするから、代金を払え。
もし、仕事を達成、出来なければ話は無かったことになる。
そして、俺が受け取れなかったら、代わりに娘に払ってね。
特に、おかしな点は見つからない。
「はい」
俺はフォルネウスの目を見て答えた。
フォルネウスは黒い羽で出来た羽ペンを差し出してきた。
色はカラスの羽とそっくりだが、俺の知っているソレより一回り大きな気がする。
なれない羽ペンのせいで、少し字が崩れたが契約に問題は無いのかフォルネウスさん
は満足げにうなずいた。
「これは、貴君が持っておくと良い」
フォルネウスはそう言って用紙をおれに差し出してくる。
俺が用紙を受け取ると、フォルネウスは微笑みながら言った。
「それでは、余生を楽しむが良い」
さっきとは、逆に風が廃墟の外に向かって吹く。
俺は余りの風量に目を閉じた。
次に、俺が目を開けるとそこには誰も居なかった。
魔法陣の中央には空の紙コップが転がっている。
「……」
俺は自分でも、今さっきの出来事が信じられなかった。
悪魔を召還して契約する。
そんな事が現実に有り得ると信じるより、俺の頭がおかしくなっている方が現実的だろう。
だが、今起こった『現実』を俺が手に握った用紙が証明している。
俺は、用紙の内容を読み返す。
そこには、さっき確認したのと、何一つ違いの無い文章が並んでいる。
俺の中にようやく悪魔と契約したという実感が湧いてきた。
ひょっとしたら、俺は取り返しの付かないことをしたのかも知れない。
ただ長年、願い続けた事が叶うのなら、そんなの些細な問題だ。
もう、周りに居る人間を羨まずにすむんだから。
俺は荷物をまとめて鞄につめた。
そして、俺はあわてて外に出た。
もう外はすっかり暗くなっていた。
おまけに、雨が降っている。
止むまでここで待つか、それとも濡れて帰るか。
俺は濡れて変える事にした。
今日は機嫌が良いから多少のことなら気にならなさそうだ。。
「--♪」
俺は口笛を吹きながら外に出た。
思えばこの時の俺は完全に浮かれていた。
俺の顔を右横から光が照らした。
俺は反射的に右を見る。
すると、俺の直ぐ目の前にトラックが迫っていた。
今から、どう足掻いてもかわせそうに無い。
運転手の驚いた顔がハッキリと見えた。
「マジかよ」
俺の最後の言葉はそんな、ありふれた言葉だった。
体に衝撃が走り吹き飛ばされるのが解る。
そして、俺は意識を失った。
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