悪魔に魂を売ったら勇者と戦うことになりました。
否柿八年
魔王と竜姫
第1話 悪魔召還
俺は、学校指定の正鞄からタッパを取り出した。
タッパの中には教室から拝借してきたチョークが入っている。
犯罪?これは国民の税金で買われた物で、
何も、問題は無い。
ここは長い間、放置された雑居ビル、まあ廃墟と言うやつだ。
床のコンクリートに積った
『簡単に出来る悪魔召還入門』税込み756円。
これを買うときに、コンビニの店員に何ともいえない顔をされた。
別に俺も心の底から信じている訳でもない。
半分、遊びみたいなものだ。
俺は、開けた本に書いてある通りに床にチョークで線を引いていく。
「よし、完成!!」
床に、円と星とよくわからない文字を組み合わせたもの、いわば魔法陣が描きあがった。
後は、本によるとこの魔法陣の中に血を垂らせば良いらしい。
俺は鞄の中からナイフを取り出すと右手で柄を持ち刃を左手の手のひらに押し付けた。
ただ、いざ自分の手を切ろうとすると如何しても躊躇ってしまう。
そうして、固まること二十秒、俺はようやく覚悟を決めた。
俺は息を止めて目を閉じ、ナイフの左手を勢いよく引いた。
「……」
喉から、声すら出なかった。
思った以上に痛い。
ドラマとかで、平然とやっているから案外痛くないんじゃないかなんて考えていたが、甘かった。
俺は掌の痛みをこらえて、魔法陣の中央まで歩いた。
そして、魔法陣の中に血を一滴落とす。
すると……何も起こらなかった。
「うん、知ってた」
俺は誰に向けたわけでもなく言った。
俺だって本心から悪魔が来るとは思っていなかった。
ただ、全く期待していなかったと言うと嘘になる。
何だか脱力感を感じる。
熱に浮かされバカをやって、その後職員室で反省しているときのような心境だ。
俺は僅かな失意と共に廃墟の階段を下りようとした。
すると、急に強い風が吹いた。
それも、廃墟の中に向かって。
いや、正確には風は魔法陣の中央に向かって吹いていた。
俺は、その場で固まった。
後ろに、とんでもないナニカが居るような気がする。
俺は、後ろを恐る恐る振り返る。
すると、底にはソレが居た。
一見すると、唯の人間だがそこには人間には無いものが二つある。
頭から生えた角と、背中から生えた翼だ。
「悪魔?」
俺は思わず呟いた。
俺が呼び出しておいて変な話かもしれないが、俺は余りの事態に混乱していた。
ただ、相手はそんな俺に落ち着き払った態度で答える。
「いかにも、我が名はフォルネウス
聖戦時代に、偉大なる父ルキフェルと肩を並べた悪魔の1柱
今代の魔王を努めている」
それに対して俺は、すっかり狼狽していた。
自分でも何をどうすれば良いのか解らなくなり。
「イケメンですね」
俺の口から訳の解らない言葉が出る。
自分でも、何を言っているのか解らない。
因みにフォルネウスは、50代ほどに見えるが結構男前だった。
「そうか」
フォルネウスは嬉しそうに微笑んだ。
悪魔でも容姿を褒められると嬉しいんだな。
「……」
「……」
暫く無言で見つめあうと俺は正気に返る。
俺は鞄から紙コップと、ペットボトルの緑茶を取り出した。
「さっ、どうぞ」
俺は、フォルネウスに紙コップを差し出した。
フォルウネスが紙コップを受け取ったのを確認するとそこに緑茶を注ぐ。
何で、こんな事をしているのかって。
そこの本に、もし悪魔が出てきたら丁寧にもてなす様に書いてあるからだよ。
……茶菓子も用意しておくべきだったかな?
「中々に美味い」
フォルネウスは、一口緑茶を飲むとそう言った。
日本人としては素直に嬉しい。
フォルネウスは緑茶を一気に飲み干す。
「もう十分だ」
空になった紙コップに緑茶を注ごうとした俺をフォルネウスは手で制しながら言った。
「悪魔召還など、久しぶりだ」
フォルネウスはしみじみと呟いた。
「フォルネウスさんは…おいくつなんですか?」
俺は思い切ってフォルネウスとコミュニケーションをとることを試みる。
相手の機嫌を損ねないように丁寧な言葉使いで。
「年齢の話か?」
俺は黙ってうなずいた。
「人間が暦を作る前から生きている」
なるほど、少なくとも二千歳以上らしい。
「本当に久しぶりだ、悪魔召還など
こんなに、間違った魔法陣を書いたのは貴君が最初だが」
フォルネウスが聞き逃せないことを言った。
間違った魔法陣?
「フォルネウスさん」
俺はフォルネウスに詰め寄った。
相手が魔王だろうと何だろうと関係ない。
そんな、事より重要な事がある。
「間違っているって?」
フォルネウスさんは若干引き気味にだが答えてくれた。
「ああ、あの魔法陣は間違っている
あと、血も特に必要ない」
くそ、出版会社にクレームだ。
本の代金と怪我の治療費をせしめてやる。
俺は再び廃墟を後にしようとした。
「貴君が何処に行こうと勝手だが、その前に私との契約を済ましてもらいたいものだ」
俺は後ろから聞こえた呆れ声に足を止めた。
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