第52話 俺の名は?

「必要なのは、戦術に合った魔物なのよ」

 華が先頭を歩きながら、奈美と琴音に説明する。

「奈美なら、防御力の高い魔物を壁にして後方から魔法でってのが基本戦術なわけよ」

「ふぅん…」

「琴音は、自身をサポートする強化系の魔法使いとかと相性は良さそうよね」

「なるほどね」


「えいっ!!」

 奈美が石の上にカードをかざして、何かを捕まえた。

「奈美…何をカード化したの?」

 華が奈美に駆け寄る。

「アンタ、人の話聞いてた?」

「何を捕まえたのかなー」

 琴音が奈美のカードをヒョイッと取り上げる。

「なにコレ?」

「アリ…緑色のアリ…初めて見た」

「昆虫採集じゃないのよ!! バカなの? ねぇバカなの?」

 華が奈美を木の棒で突きながら責め立てる。

「痛い…地味に痛い~」

「アリってアイテム扱いなのね…」

 琴音が奈美にカードを返す。


 洞窟を覗き、ジャングルを歩く…そして野宿。

「便利よね~ライターいらずだもんね~」

 ドグラ・マグラが捕獲した、獣というには荒々しい哺乳類を焼いている。

「思うに…アレをカード化したほうが良かったんじゃないかしら?」

 琴音が木の実を頬張りながら奈美に話しかける。

「手遅れよ…」

 華が吐き捨てるように言う。

「だって~筋肉ダルマが~仕留めちゃうんだもん」

 そう、覗いた洞窟の奥に真っ赤に光る大きな眼、洞窟に響く咆哮、この生き物を食料と認識したのはドグラ・マグラだけである。

「HAHAHAHAHA、マカセテ、クダサ~イ」

 任せた…それが間違いの元だった。

 ブチッ!と首をモギモギして、ドグラ・マグラがアッという間に仕留めたのだ。

 クリティカルヒット一撃死 首チョンバってやつである。

 額に『666』と焼印が押されていたあたり、飼われていたのかもしれない、サタンあたりに。


 終末の獣の肉は美味だった。

 野性味あふれる豚というか…イベリコには無い風味がクセになる。

 バーベキュー向きの味だ。

「やっぱ串焼きね」

 華は満足そうだ。

 ドグラ・マグラは余った部分を燻製にしようとしている。

「ジャーキーとかにならないかしら」

 ビールを飲みながら、魔界で、つまみを所望する琴音。

 マシュマロを焼いている奈美。

 キャンプ気分である。

 もう少し酒が入れば、マイム・マイムを踊りだしそうな3人である。


「明日はどうする?」

「水系のモンスターも欲しいわよね」

「ネッシー?」

 奈美が華に聞く

「いや、アレは観賞用だから、ペットだから」

「ネッシーはペットじゃないわ…たぶん…」

 琴音が小さく呟く。

「何がいるの~?」

「そうね…海竜よね、シーサーペントよね、リヴァイアタンよね」

「リヴァイアタンって…いるの?」

「デビルね、タベレマスカ?」

 ドグラ・マグラが、うちわで肉を炙りながら聞いてきた。

「悪魔なの?竜じゃないの?」

 琴音が華に聞く

「解釈が難しいのよねー、悪魔っちゃあ悪魔なのよね…竜っていえば…竜かな」

「よく解んないけど~カードにしたら強いってことね~」

「まぁそうね、切り札にはなるわよ、強力なね」

「よし!! 明日はリヴァイアタン狩りに行くわよー!!」

 琴音が月にビールを掲げた。


「ドグラ・マグラ、イカダ作っておいて」

「OK、華サマ ヨロコンデ」

 親指をグッと突き立てる魔神。


 なんだかんだで、順調にカードは揃ってきている3人であった。

 このモンスターだらけの島で、爆睡できる3人である。

 彼女達の辞書に『無謀』の2文字はない…というか辞書がない?


 その様子を目をヒクヒクさせて見ている男が独り…。

「コイツラ食っちまったのか…俺のビスケちゃんを…許さんぞ」

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