第48話 無限回廊

「で…Q作に落ち着いたの…コレ」

「コレって、モノみたいに扱わないで~」

「そうよ琴音、Q作は家族なのよ」

 華がビシッと琴音を指さす。

「UMAが家族って…ファンタジーかアニメよ…」

「ワタシがいい名を考えました、けどナミさん、マイナスにアレンジしたよ…ゴフッ」

 ブツブツと文句を言いながら粉末プロテインでむせる、ドグラ・マグラ。

 部屋の隅で大きな身体を丸めてイジけている。

「まぁ…間の抜けた名前だけど…決まったってことは良い事よ」

 琴音が、うんうんと頷く。

「メダカ食べてる~美味しそうに食べてる~」

 奈美が楽しそうにQ作にメダカを与えている。

「何より、奈美が気に入ってるんだからいいんじゃない」

 華がソーダをストローでブクブクしながら奈美を見ている。

 楽しそうである。

 何も考えてないようで愉しそうである。

「幸せな子よねー奈美って…」

 琴音がフッと笑いながら奈美を見つめる。

「犬より淫魔のほうがいいってこと?」

「そういうことじゃないわよ…なんかね…ポヤーッとしてて、ある日突然、突拍子もないことをする」

「うん…クリニック開業したり、悪魔になったり、ちょっと変わった人生よね」

 華が小首を傾げながら琴音を見る。

「だいぶね…変わってるってレベルじゃないからね」

「うん…でも琴音も犬に転生したわけだし、変わってるという点では負けてないわよ」

「うん…勝ち負けはいいの…勝ちたくないし」


「ンギャー…噛んだ~、Q作が噛んだ~」

 指を押さえて1人で騒ぐ奈美。

「血が出た~、華、絆創膏~」


「痛い…Q作嫌い…あっちいけ! 飼い犬に手を噛まれるとは~」

「犬じゃないし…噛まれたの指だし…意味違うし…」

 琴音が淡々と呟く。

「犬が、そう申しております…クックックッ」

 華が奈美の指に絆創膏を貼りながら嫌味に笑い、スパーンと叩かれる。

「犬に叩かれたー、飼い犬に叩かれたー ……こういうときに使うのよ奈美」

「誰が飼い犬じゃ!」


 水槽に戻されたQ作、気持ちよさそうに泳いでいる。

「大きくなったんでないかい?」

 琴音がボソリと奈美に聞く。

「ん?」

 と自分の胸を擦る奈美。

「胸じゃなくて! Q作…」

「チッ!」

 華が舌打ちした…どうやら奈美と同じタイミングで胸を擦っていたようだ。

「成長したのかも~歯も鋭くなってきたような~」

「そりゃそうよ…恐竜だからね」

 華がドーンと薄い胸を張る。

「ミニチュアだから、これ以上にはならないと思うけどね」

「これ以上、大きくなったら隠し切れない~」

「隠してないじゃん…リビングにも、受付にも、診察室にも、水槽あるじゃん」

「奈美がねー、なんだかんだで連れ回すのよー」

「見せびらかしたい~」

「隠せよ…UMAだから…なんなら形容詞付けてTHE UMAだから」

「外には連れてってないよ~昼間は…」

「昼間は?」

「そうなの…バカだから、夜、たまに散歩連れてくの…公園の噴水で泳がすの…バカだから」

「ダメよー奈美、未確認生物だから…ねっ…未確認なの、確認されちゃダメなの、解る?」

「ふぅん…でも…たまにふなとかザリガニも獲ってくるよ、自分で…Q作、自炊してる」

「自炊じゃないわ…奈美…自主調達よ」

 華がビシッと奈美を指さす。

「水槽が小さくなったのかもねー、奈美の指を噛むのも狩猟本能みたいなものかもね」

「おっきな水槽買う~噛まれたくない~、指に見たことない歯型付いてるし」


 で…

「これでいいのね…奈美…」

「これがいい~」

「どこに置くの…」

「リビング」


 人工池を購入した奈美。

 小さな滝まで完備している。

 濾過器を兼ねているのだ。


「狭いわ…奈美…」

「ん~、元気に泳いでる~あっ! ザリガニ獲ったよ!」

「うん…いいんだけど…」


 バカデカい強化プラスチック製の3mほどのひょうたん型の人工池を直置き。

 空いた水槽には、そのうち捕食されるであろう、淡水魚やザリガニが飼育されている。

「華、Q作って繁殖するのよね?」

 琴音が華に聞く。

「出来るんじゃない?売ってるくらいだから」

「これ…卵じゃね?」

 水槽の岩の淵に2個の白い球体が…。

「そういえば…ドグラ・マグラがクィーンって言いきったのは…」

「奈美!」

「そうよ~メスって書いてあったもん…でも…妊娠中とは書いてなかったよ~」

「デカくなったんじゃなくて…妊娠してたんだね…」

 華が笑う。

「何年生きるの?」

「80年くらいは大丈夫なんだって~」

「アンタいくつになってんのよ?奈美?」

「何、心配してんの? アンタら半永久的に死なないのよ」

 ケタケタと華が笑う。


 自分が、そんな年月、数えるに値しない寿命を得たことを自覚していない琴音であった。


                         淫魔と魔女と犬女編 完

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