第47話 ネッシーの名前

「ところで…ネッシーの名前決まったの?」

 琴音が昼からステーキを食いながら奈美に聞く。

 犬化してからレア派であり、また肉を欲するようになっている。

 順調に犬の血が馴染んできているようだ。

 後、百年もすれば、立派な戦士となるであろう、華は、その姿を想像し目を閉じ満足気に頷くのであった。

「ま~だ~、決めかねてる」

「ミニッシーでいいじゃん」

「なんかヤダ」

「フフフフ…アタシに任せて頂戴!」

 華がハンバーグをフォークに差し頭上に掲げて、ふんぞり返る。

「華! ハンバーグ落ちるわよ」

 琴音が言い終わる前にハンバーグは華の顔面にベチャッと落ちるのであった。

「アヂッ!」

「あ~、服にソースが~」

 奈美がアワワッとミートソースパスタをフォークに巻き付けたまま手を振りまわす。


「ありがとうございました」


 店を出た3人の服にはソース染みがクッキリと付いていた。

「華のせいよ…」

「違うもん、奈美がパスタ振り回すからだもん」

「ま~た他人のせいにする~、そういうトコだよ~華の悪いトコは」

「アンタらはいいのよ…自業自得だから、アタシは右にミートソース、左にデミグラスを付けられてんだけど…」

「うっ…」×2

 琴音が一番の被害者と言えよう。

 それは、染みの面積から見ても明らかだ。


「まったく! このまま職場に戻るのよアタシは!」

 仕事に戻る琴音の後姿は、うっかり触れれば、しっかり食い殺されそうなオーラを放っていた。

「狂犬ね」

「怖いね~琴音は…カルシウム足りないのかな?」

「今度、骨与えてみようか?ペットショップに売ってるやつ」

「グフフフ…投げたら取りに走ったりして?」

「ギャハハハ、咥えて帰ってくるの、尻尾振って」


 琴音の怒りのテンションと真逆の奈美と華、だから琴音の血圧は下がらないのだろう。

 高血圧だとして、琴音は動物病院に行くのだろうか…それはまだ、誰にも解らない。


「華、今日、冬月さん来るんだっけ?」

「そうよ、睡眠障害だって」

「あ~足温めると眠れるよ、冷え症なんじゃない」

「奈美…本気で言ってんの?あの人、雪女よ…」

「知ってるよ~、だから持病なのよ~」

(雪女に冷え症だからってアドバイスするカウンセラー…怖いわ…さすが悪魔というべきか…)


 そんなこんなで、睡眠導入剤を処方して、あと靴下履いて寝る様にと、アドバイスも付け加えておいた奈美。

「あ~働いた~」

 ソファにボフンと座り込む奈美。

「奈美…アンタ、労働者すべてに謝れ…」

「なんで?」


「さて…本題に戻るかね…華さんや」

「本題って?」

「ミニッシー(仮)の名前を考えるのよ」

「そっちがメインなの?」

「うん…気になると眠れない性質たちなの」

「初耳だわ…アンタ快眠じゃん、淫魔とは思えないくらい快眠じゃん」

「気になることが無かったのよ、最近…」


「よしっ! ドグラマグラ召喚!」

 パラッと本をめくる奈美。

「AHAHAHAHAHAHAHA! You called?」

「うん、アンタ、コレの名前考えて?」

「What?」

「なに、英語で言わなきゃダメ?」

「奈美! 名前ならアタシいくつか候補があるんだってば!」

「えぇ?華のセンス微妙なんだもん」

「自信作!」

「たとえば?」

龍鬼りゅうきとか…ロッくんとか?」

「なに?ロッくんって?」

「首長いし…ろくろ首のロッくん」

「嫌よ…そんなの…センスある可愛さ且つ、知的な響きを持つ名前がいいのよ」

「ナミさ~ん、グッドネームを考えましたよ! クインシー! どうですか?」

 ドグラ・マグラが油っぽい汗まみれの顔を近づける。

「クインシー?」

「海の女王って意味デ~ス」

「クィーン・シー…ね」

 華が負けたって顔でドグラ・マグラを見ている。

「Q…C」

「奈美…Cじゃないわ…Sよ」

「Q…S」

「あっ! Q作でいいや!」

「キューサク?」

「おいで、Q作」

 クケーッとヒレをバタつかせて奈美に擦り寄るQ作。

「ほらっ、ねっ、Q作で懐いた、Q作」


 ガクーッと力が抜ける 魔神ドグラ・マグラと華であった。

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