第46話 長命な魔族ゆえに…

 かれこれ5時間ほど、お面は張り付いたまま…。

「そもそも、このお面、誰が持ってきたのよ」

 琴音がジロッと華を見る。

「うっ…すまんかった…良かれと思って」

「なんに使う気だったのよ~」

「ん…受付に飾ろうとして、インテリア的な…なんか未開の地へ行きました的なアレを…」

「アンタの故郷でしょ! 未開の地って…」

 缶ビールを咥えながら、足で華の頭を小突く琴音。

 手鏡にお面を写して溜息をつく奈美。

「せめて、可愛いのにしてほしかった~、こんなエスニカン満載の部族的な装飾、好みじゃない~」

「そうよ華! センス悪い!」

 ちっこい頭を琴音に足でグリグリされる華。

「なんか、異国の地でシャーマン的なソレも学びましたという雰囲気を醸し出した方がいいかなと…良かれと思って」

「華…アンタ、アタシのために…ありがとう~」

 感動した奈美が華を抱きしめようとする。

「奈美、不気味だから…一定の距離はキープして!」

 ピシャリと華がお面を叩く。

「うっ…うっ…華が冷たい~、華のせいなのに~」

「まぁ…それを言われるとさー、なんかスマンかったとしか…ねぇ」

「ちっこいくせに、破壊力抜群のトラブルメーカーよねー、華って」

 琴音がペシペシと華の頭を軽く叩く。


 進展のないまま、さらに2時間が過ぎた。


「なんか…顔が熱くなってきた…ような気がする~」

「えっ?」

「なんかマズイんじゃないの?」

 琴音が奈美を不安気味に見る。

「奈美…熱いのね?ワイン飲み過ぎたとかじゃなく」

 華が一応確認する。

「うん…なんか…汗がでてくる~」

「呪い?呪いの仮面系?」

「まぁ…見たまんまっちゃあ…見たまんまよねー」

 華がもっともらしく頷き、呟く。

「じゃあ、なんで持ってきたのよ!」

 また、スパーンとスリッパで琴音にはたかれる華。

「なんか~顔から持って行かれてる気がする~なんか出てる気がする~」

 奈美がお面を押さえて、ジタバタ暴れ出す。

「とりあえず水、水を掛けよう! 華!」

「がってん!」

 ドタバタっと華がシャワールームに走り去る…。

「顔が熱い~」

 ドタバタっと華が戻ってきて

「ウォーターバルーン! くらえッ!!」

 奈美の顔に水風船を叩きつける。

 バシャーン!

 ただただ…リビングを水浸しにしただけの悪ふざけでした。

 濡れた床でミニチュアネッシーがパシャパシャと楽しげに遊んでいる。

 奈美はお面の上に冷えピタを張りまくって倒れている。

 華が、うちわでパタパタと奈美の顔を扇いでいる。


 そして…お面を被ってから8時間が経った。

 ピーッ…ピーッ…ピーッ…。

 お面の額が光だし、警告音が鳴りだした。

「えっ?」×3

「いよいよだーッ! 爆発するー!」

 華が、いち早くリビングから逃げようと立ち上がる。

「逃がさな~い!」

 奈美が華の足をむんずッと掴んで、ビターンと転ぶ華。

「そろそろ…帰ろうかな…私」

 琴音がソロリと立ち上がろうとしたときだった。

「死なばもろとも…スライム召喚!」

「んぎゃーっ」

 琴音がスライムに呑みこまれていく…。

 首だけ出して、身体は緑のスライムの中。


 ピーッ…ピーッ…ピーッ…ピッ、ピッ、ピッ、チンッ!


 ゴトン…。

 水浸し…スライムまみれの床に、お面が落ちた。

「ん?…ムムム…取れた~」

 鏡を覗き、奈美が8時間ぶりに自分の顔と対面する。

「なんか…久しぶりね…奈美」

 琴音が奈美の顔を指で軽く突いてみると、

「んー…なんか、肌、綺麗になってないかい?」

「ホント?」

 華が奈美のほっぺたをムギューと引っ張ってみる。

「痛い~」

「よく解らんが…三十路には深刻な問題なのかしら?」

 口に出せねば、叩かれないのに…なぜか口にしてしまう華。

 お面を琴音が拾い上げる、裏に説明が書いてある。

『顔に装着するだけで、8時間後には産まれたての赤ちゃんの様な肌に戻ります。途中、加熱いたしますが、古い角質を除去しているだけですので、ご心配なく。魔法美顔器』

「魔法美顔器…だって…」

「あ~それでか、なんだか肌が…汚れが落ちたって気がする~」

 奈美がサッパリした顔で満足気に伸びをする。

「うっ…確かに…キレイになってるわ…ワタシも」

 琴音が顔にお面を当ててみる、手を放すとゴトンと床に落ちる。

「なぜ?」

「琴音ー、使い捨てみたいだよ、コレ」

 華がケタケタと笑う。


 気が付けば、空は白んでいた…。

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