第45話 首から下は魅力ゼロ

「ばぁー!」

 奈美がお面を被って、ビキニアーマーを纏い華の前にバッと表れる。

「奈美…貧乳でアンタだってすぐ解るわ…そのアーマーただの飾りだから…魔力感じないから…」

「貧乳に貧乳言われたくない」

「アタシは可能性を秘めてるの!」

「ない、DNA嘘つかない…可能性ない」

「カタコトで否定するな!」

「うるさいわよBフラッター!」

 琴音がリビングで酔っぱらっている。

「若干の酒乱なのかしら…犬のくせに!」

 華が琴音に怒鳴る。

「フランケンならぬ酒乱犬みたいな~」

「噛まれたら感染するし、狂犬ね!」

「その貧相な身体を強調する鎧脱げ、悲しくなってくる」

「うん…それは無いわー奈美」

「そうよ、なんの効果も無ければ、そんなものエロ下着と同じよ」

「うっ…なんの役にも立たないから…せめて愉しませようと…恥ずかしいの我慢して着てみたのに…」

「まぁ…そのアーマーの唯一のソレっぽいのは、サイズが装着者にオートフィットすることだけだから…防御力とか無いから」

「そうなの?………自動で……琴音~」

「あっ?」

「ちょっと犬になってコレ着てみて、どうなるか見てみたい~」

「首輪とかになったりしてーただの首輪にー ギャハッハハハ」

 華が想像して大笑いする、そしてスリッパでスパーンと琴音にはたかれるのである。

「で…いつまでお面付けてるの?外してワイン飲もうよ奈美」

「うん…さっきからね~気づかないようにしてたんだけど…」

「ん?」

「何かの間違いだと思いたかった~、でもね…気のせいじゃなかったの…」

「はっ?」

「取れない…お面…取れない…どうしよう…」


 引っ張ったり、熱したり…冷やしたり…色々試しては見たものの…取れないのである。

 3人がリビングで円陣汲んで、腕組みしている。

「こんなときこそ、魔神よ!」

 華が名案とばかりに魔導書を奈美に渡す。

「え~、なんとかなるの~」

「ものは試しよ」

 琴音が奈美に召喚を促す。


「HAHAHAHAHA、ドウシマシタカ、ナミさ~ん」

「あのね~、お面を取って欲しいの…」

「イージーで~す…コトネさ~ま、ハナさ~ま、ナミさんをオサエテクダサ~イ」

 なぜか、琴音と華には『様』をつけるが、マスターである奈美には『さん』付けのドグラ・マグラ。

「こう?」

 2人が奈美を抑えつける。

「OK、OK、イキマスヨー」

 黒い太い腕が奈美の顔に張り付いたお面をグイッと両手で掴む。

「HEY、HEY、YO-」

 間の悪い掛け声を掛けて、思いっきりお面を引っ張るドグラ・マグラ。

「イターイ!…ギブ、ギブ、ギブ…首が抜けるー、ポーンッてなるー」

「チッ! シット!」

 舌打ちをして手を放すドグラ・マグラ。

 奈美は思った…

(この黒いの…隙あらば殺そうとしてるのではないか…)

 あきらかに、残念といった表情を見せているドグラ・マグラ。

 とりあえず、魔神は役に立たないと判断して本へ帰還していただいた。


「さて…ところで奈美、苦しくは無いの?」

 琴音が奈美に尋ねた。

「不思議とジャストフィットしてるの~苦しくは無い」

「じゃあ、そのままでいいんじゃない」

 アクビをしながら華が言う。

「それは困る~なんか一応、接客業だし…これはハッチャケ過ぎだと思う~TPOってやつ?」

「そうよ!華! 奈美はね、首から上だけで生きてるの、首から下のマイナスを首から上で、かろうじて補ってるの、それが無くなったら…この娘もう…もう…いいとこないじゃない!」

「うん…ごめんね奈美…眠くなって、とりあえず、どーでもいいかなって思っただけなの、他人ごとだから、ゴメンね」

「アタシ…たまにアンタ達キライになれる気がするな~って思うことあるよ…でも今だけは頑張って欲しい~」

「なんとかしようね…唯一の長所を守れるように」

 琴音が奈美をそっと抱きしめる。

「うん…ファイトだよ」

 華が奈美の手を取る。

「うん、アタシ頑張る~、最悪、このままでも2人を恨まない~」

 微妙な結束が固まったが…問題は1歩も進展していない。


「そもそも…恨まれる所以は無い」

 華が薄い胸を張って主張する。

「そうよね…奈美が勝手に被ってんだからね」


 進展せずに後退してきた深夜2時であった。

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