第44話 お土産は非売品

「実りの多いメイド体験だったわね」

 華が奈美の掌を消毒しながら、初バイトの経験を語る。

「滲みる…痛い…いいことなかった…」

 おそらくは、もっとも実りを得たであろう奈美の感想に呆れる琴音。

「あんたね~、あの恐ろしく強い魔神を従えたのよ、机の下に隠れただけで…」

 そう、ある意味スーパー棚ボタを得た奈美であったが、如何せん無自覚というか本人、有難迷惑というか…。

 現在、魔神ドグラ・マグラ、絶賛トイレ清掃中である。

「便利じゃない…魔神」

 華がリビングからトイレの方を見ながら言った。

 トイレのドアを開け放ち、黒い身体をユサユサ揺らしながら掃除している、ドグラ・マグラ。

「まぁ…奈美の報酬はアレでいいとして、屋敷から頂いたお土産の分配を決めないと」

 琴音がリビングに散らばったを中央に集める。

「アタシも欲し~い、アレだけじゃヤダ」

「奈美…アンタのアレ、最高峰よ、今回もアレ目当てで仕組まれたバイトだったわけだし」

 華の言葉に琴音が頷く。

 この3人にとって、魔神ドグラ・マグラは『アレ』扱いらしい。

「記念らしいもの…お土産らしいものが欲しい~」

「奈美、アンタ、あのネッシーも、うっかり持ち込んだだけでも、どうかと思うけど…今回持ち込んだのは魔神よ、本から出入りする魔神なのよ、ネッシーよりデカイの」

「でも…本にちゃんと戻って行く…から収納には困らない」

「あのね、見た時のインパクトがネッシーより大きいの、そこが問題なの」

(そこが問題なのか?)

 華が首を傾げた。

「だって~アレ、魔法でパパッとなんかするわけでもなく、頼むと自分で動くんだよ、アタシ、ああいうの、魔法で何かすると思ってた」

 そう、魔神ドグラ・マグラは魔法は使えない。

 肉弾戦特化タイプ、ゆえに長い詠唱を必要とするネクロマンサー死人使いとは相性が良い組み合わせといえる。

 しかし、今の所、掃除くらいしか役に立たない。

 せめてもの救いは、意外とキレイ好きであることだけだ。

「しかも~プロテインが意外と食費を圧迫してくる~」

 そう、食事の嗜好は地味だが、プロテインを欲するのである。

 メインディッシュがプロテインなのかな?というくらい摂取する。


 まぁそんなわけで華が中心となって分配を始める。

「コレは琴音…コレはアタシで…琴音で…奈美で…」

 魔導書の類は華、武器の類は琴音、その他が奈美。

「なんか…アタシの地味な気がする~」

 奈美から不満が漏れる、見た目仕方ないのだ、琴音や華に適したものは装飾品も多い。

 指輪やネックレスに魔法を付加させたものが多いせいだ。

 奈美に適したというと…サキュバスらしいビキニアーマーとか…効果のほどが不明な不気味なお面とか…コスプレか、ガラクタかの2択であった。

「琴音のソレいいな~」

 奈美が欲しがったのが、指輪である。

 どうやら魔法に反応してシールドをオートで形成するようで、華のファイヤーボールを防いでみせた。

 奈美は効果はどうでもいいのだが、デザインが気に入ったのである。

 人間の目を象ったようなデザインで発動時にギョロッと瞳が開くのだ。

「なんか面白い~」

 そしてなにより気に入ったのは、ファイヤーボールを弾くときに、まるで水中から花火を見るように目の前でパァーッと広がる様がキレイだったのだ。


 なんだかんだで土産の分配が終了した夜更け。

 琴音が泊まり、奈美が悪戯心で怪しげなお面を被って、風呂から出てきた華を驚かそうとしたところから悲劇だか喜劇は始まったのである…。

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