第43話 魔神を従えしもの

「素晴らしい…ドグラ・マグラよ…我が命に従え」

 榊さんがドグラ・マグラに近づく。

 ドグラ・マグラが榊さんを見る。

「No」

「はっ?」

「Noー!!」

 ドグラ・マグラの拳が榊さんに振り下ろされた。

 寸でのところで、メイド長が拳を受け止める。

 いつの間にか、使用人全員集合していたのである。

「強っ! メイド長強い」

 机の下から成り行きを見守っていた奈美。

 ドグラ・マグラは止められた拳を、そのまま上に振り上げ、勢いよく振り下ろした。

 メイド長は頭部で両手を交差させて受け止めようとしたが、無残にもその腕ごと頭部が砕かれた。

 床にガシャンと音を立てて崩れるメイド長。

 半分砕けた頭部が奈美の足元に転がってくる。

「奈美さん! お庭の掃除が終わったら…」

 グシャッ!

 ドグラ・マグラが奈美に近づき、何事か言いかけていたメイド長の頭部を踏み砕いた。

(ありゃ…トラウマになるわ)

 華は奈美に、少~しだけ同情した。

 目の前に黒光りする筋肉ダルマが仁王立っている。

(ダメ…これダメなやつだ…孕む…触られただけで孕む…)

 ドグラ・マグラが奈美を両手でガッチリと掴む。

「奈美!」

 琴音が叫び、華が手をドグラ・マグラに向ける。

「My  Master」

 ドグラ・マグラが力いっぱい奈美を抱きしめた。

「グエッ」

 カエルが潰されたような声を上げて奈美が琴音と華を見て無言で首を横にフルフル振っている…うっすらと涙を浮かべていた…。

(イヤイヤしてる…)


「ふざけるなよ! その魔神は私のものだー! 殺してしまえ!」

 榊さんのヒステリックな叫び声で、使用人がドグラ・マグラと琴音・華に襲い掛かる。

「こっちのほうが先みたいね」

 筋肉ダルマ>使用人 華は瞬時に答えをだしていた。

 こっちのほうが楽だと。

 そんな華の考えを悟った琴音が黙って頷く。

「目を逸らさないでほしい~助けてほしい~」

 魂の叫びだ、声量こそないが…紛れもない魂の叫び。


「ん?助ける?Help?OK!」

 ドグラ・マグラが襲いかかる使用人をのに2分必要無かった。

 奈美が何から助けを求めたのか?ということはともかく、とりあえず奈美も潰されるまえに解放されたのである。

「人形だったのね…全員というか…全部…」


「なぜ…私に従わないのだ…」

 書庫の扉付近で呆然と立ち尽くしていた榊さん。

「契約は成されたはずだ…」

 榊さんが魔導書を確認する、白紙のページに自分の手形が…ん…少し小さいか…。

「そういうこと…アタシの血で封印を解いてね~、事前に自分の血で所有者登録をしていたわけか」

 華が魔導書を取り上げる。

「返せ!」

「返せ?この本の所有者は榊、貴様じゃない!」

「はっ?誰だと言うのだ?」

「決まってんでしょ、あそこで今にも吐きそげに嘔吐えずいている女よ」

 華の指さす先、隅で身体を震わす細長い女、奈美である。

「なぜ、あの女なのだ!」


 本を手放す前に、華のファイヤーボールで転んで手を擦りむいた奈美。

 アタフタと這うように机の下に避難するときに、魔導書の契約者登録ページにバンッと手形を押していた…つまり上書きされたわけである。

 解放された魔神に契約者が命令すれば契約完了。


「バカな…あんな底辺サキュバスが、魔神の力を…」

「気持ち解るわ~、あの貧乳が魔神の御主人とはねー納得いかないわー」

 琴音が榊さんに、少し同情する。


 そんなこんなで、榊さん家でのアルバイトを終了した3人。

 来るときは手ぶらだったのに…帰るときは荷車を引いていた…。

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