第41話 この血、誰の血、王女の血

「華~芝刈り終わった~?」

「終わるわけないじゃないのよ! なんなのよ、この広さ!」

 ちっこい華が、さらに小さく見えるほどに庭は広い。

 シトシトと雨が降るなか池の掃除している奈美の足元で鯉がパシャパシャ跳ねまわる。

 池の中ではノホホ~ンと泳いでいるだけなのに、鯉とは固く、重い魚なのだ。

 そう…鯉という魚はタフなので、芝生の上でも跳ねまくるのだ。

 狭い水路で繋がれた複数ある池から池へと泳ぐのが面倒なのか、跳ねながら移動している…。

 奈美は思った。

「今にも両生類へ進化しそうな勢いを感じる…」

 奈美の目の前をビターン、ビターンと跳ねながら移動する鯉たち、いつかコイツラに食われるんじゃないかと本気の不安が脳裏を過った。


「お疲れ、お疲れ、 うわっ気色ワル!」

 傘を差し、メイド服の琴音、足元を横切る鯉を蹴り飛ばす。

「お腹空いたよー琴音ー」

 華が琴音に擦り寄る。

「ワタシも~」

 奈美が反対側から琴音に擦り寄る。

「なんか臭い…土臭い! 生臭い! 早く着替えなさいよ、お昼だよ」


 奈美と華がレインコートを脱いで、メイド部屋へ行くと、すでに3人以外は食事を済ませていた。

「今日の、御飯はなんだろな♪」

 奈美がテーブルに付くと、噴かしたジャガイモにバター、バターロールが2個とポタージュスープ、クルトン取り放題。

「美味ひい…美味ひい…」

 奈美も、華も上機嫌である。

 2人の普段からの食生活を考えれば、こんなお昼でも豪華なのだ。

 なにせカップ麺に何を足したら豪華になるかというテーマに日々取り組んでいるのだから。


「なんだか健康的何だか、カロリー高いのか、解らない食事ね」

 琴音は少々、御不満である。

 なにせ、肉体労働を一手に任されているのである、カロリー消費が半端ない。

 使用人の中でも末端の3人、その使われようは尋常ではなかった。

「アナタ達、食事が済み次第、書庫の整理に回ってくださいね、旦那様から申しつけです」

 THEメイド長みたいなメイド長がハタキを手渡してきた。


「しかし…この屋敷…無駄に広いわね」

 琴音が本を適当にパタパタと叩きながらブツブツと文句を言う。

「なんだろう…さわりたくない本ばっか…」

 奈美が顔をしかめる、そうこの書庫は魔導書が大半を占めている、背表紙だけでも充分に気持ち悪い。

「んふふー♪」

 華だけは上機嫌で本を開いて眺めている。

「アンタ趣味悪いわ」

 琴音が華の頭をハタキでパタパタする。

「やめてよー」

 華が琴音に本を投げつける、避けた本が奈美の顔にボフッと当たり…三つ巴の戦いが始まる…。

 雇われ先の書庫で暴れる3バカ。

「傷ッ…あ~指切った~」

 華が指を押さえてしゃがみこむ。

「バカね~紙は切れるのよ~スパッとね」

「どれ?見せてみなよ華」

 と琴音が華の指をとる。

 華の指からポタッと一滴、本に血が落ちて沁み込んでいく…。

 それを見ていた奈美が

「つくづく、気持ち悪い本ね~血を吸ってるみたい」

「どうせなら桜さんに吸われたいってか?」

 琴音が奈美をからかう。

「そんなんじゃないわよ~」

「血を流してんのワタシんなだけど…」

 ワーキャー、ワーキャーまた騒ぎ出す。

 誰も気づかなかった。

 血が落ちた本がビクッ、ビクッ、と脈打つように動き出していたことに…。


「やはり…王女の血か…目覚めたかな魔神ドクラ・マグラが」

 事実にて、書庫から発せられる魔力を感じて、薄く笑う旦那様。


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