第40話 冥土でメイド

 王女のアルバイト経験…メイドさんと相場は決まっている…のだそうだ。

「…というわけで、姫、3か月間、榊さんの御屋敷に出向いていただきます」

 桜さんが、お母様からの言付けを華に伝えた。

 診察後の待合室、奈美の淹れた紅茶を飲みながら華が目を丸くしている。

「なぜに…アタシが?」

「習わしというか、お約束と言うか」

「王族ってのも大変なのね~」

 他人事の奈美が呑気に華に声をかける。

「あ~先生にも伝言が…姫の世話役として付いていくようにとの魔王様からです」

「なぜに…アタシも?」

「あはははっは、奈美もだって~」

 華が、ざまあみろと笑う。

「なんで?華はメイドさんのアルバイトに行くんでしょ?メイドの世話役ってなに?聞いたことない」

「命令の出所の違いですね、お願いしましたよ先生」

「3ヶ月もクリニックを空けるの?いくらなんでも無理じゃないかしら?」

「そうよ!いくら暇でも、3ヶ月は無理よ、2ヶ月なら問題ないわ」

 行きたくない華が奈美に乗っかる。

「軽く失礼よ~華」

「あ~、出向手当が出るようですよ」

「ホントですか?おいくらほど……なるほど…OKです、行けます」

「奈美ー!」

「来週から行くわよ華」

「いやぁー」

「姫! 榊さんは高名なネクロマンサー死霊使いです、姫のためでもあるのです」

「アタシ?ネクロマンサー死霊使いになるの?」

「なるかは解りませんが、姫の資質は充分かと」

「感情の赴くままにゾンビ無限召喚、かましてくれたしね」

「…なんか…姫っぽくない…スキルのよ~な…」

「あっ、琴音さんも護衛で週に3回身辺警護に雇ってますので」


 そんなこんなで、アンダーグラウンドでも高級住宅街にある榊さんの御屋敷へ初出勤の3名。

「でかい屋敷ねー、たまげたわ、端から端までが視界に収まらないとはね」

 琴音が呆れたように呟く。

「聞いた話だと、榊さん独身で執事やメイドだけで常駐20名だとか」

「華ん家より凄いんじゃない?」

 奈美が華に聞く

「いやぁ~ウチは城だから召使と言うか兵隊が常駐してるわよね、24時間臨戦態勢っていうか」

「なんかアレね、軍事国家みたいね」

「まぁ~魔界だしね…どこもそんなもんじゃない?」

 琴音と華が喋ってる間に奈美が消えていた。

「ん?奈美は?」


「すいませ~ん、今日からお世話になるんですけど~」

 少し離れたところで奈美はインターホンに大声で話しかけていた。

「あの娘は対人メンタルは超合金なのよね、昔から…」

「ある意味、心強いわ…他はポンコツ貧乳で、いいとこ無いけど」


「お待ちしておりました、どうぞ」

 大きな門がギコッと音を立てて開く。

「早く、早く、」

 奈美が手招きしている。

「奈美、解っているのかな~死霊の館だよココ」

 華が首を傾げる。

「リアルお化け屋敷ってこと?」

「そうね~命の危険があるという意味ではリアルよね~」

「ブラックアルバイトね…究極のブラックね」

「さすが、あのキツネが選んだだけのことはあるわ」

 華と琴音が肩を落として歩く中、先頭に立って広い庭をスッタラスッタラと長い脚で歩いていく奈美。

「行動力のあるバカって嫌よね~」

 琴音が溜息をついた。

 大きな門を抜け…広い庭を横切り…ほんのり汗ばんできた頃、やっと屋敷の扉の前へ着いた3人。

「だらしないわね~華 一番若いのに」

「アタシは2人より歩幅が短いのよ!」

「琴音~化粧が崩れてる~」

「ウルサイ奈美! 胸の重さの分ハンデがあるのよ」

「歳だって認めなさいよ琴音」

「それはアタシも歳だってこと~」

 他人の屋敷の前で揉める3バカ。

「ようこそ、姫様…と御付の2名様」

 玄関が開いて立っていたのは黒いスーツの痩せた老紳士。


 玄関の先のホールには左右に並んだ使用人達が整列している。


『華 メイド修行編』の幕開けであった。

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