第39話 袖擦り合った腐れ縁

 そうなのよ…食べながら聞けば、医大生でワタシと同じ歳でって言うじゃない。

 金持ちで世間知らずのお嬢さんなんだって思ったわよ…その時は。

「今は?今はどう思ってるの?」

 奈美が琴音に聞く。

「今は…性格がまともならな~って…残念な女だなって思ってる」

 琴音の言葉に思わず頷く華。


「医大生なの?」

「ふぅん」

 頷きつつ、自分の前にあるアイスのプレートを自分の方に引き寄せる背の高い女。

 溶けかけたアイスをプレートの上でブレンドしながら口に運んでいる。

(何味でも関係なかったんじゃないかしら…)

 目の前でデザートを片っ端から、ネズミがじる様に食べては残す女。

(食べ方が…汚い)

 美味しそうなデザートを不味そうに残す女。

 だが、不思議なもので医大生というだけで、その食べ方に意味があるのでは?

 と勘繰りさせる説得力が、その肩書きにはある。

「後、あげる~」

 初対面の人に食べ残しをシェアされる…初めての経験であった。

「アンタ…友達いないでしょ」

 不味そうに残されたケーキを、フォークで突きながらズバッと聞いてみた。

 明確な根拠があったわけではない…大学生が独りでランチって琴音の女子大生のイメージと懸け離れていただけ。

 学歴のコンプレックスもあったかもしれない…いやあった。

 自分は社会で夢と現実のギャップで病みつつあるのに、目の前の女は呑気に食いきれないほどのデザートを並べてモシャモシャと食べている。

 自分のナポリタンまで食った、この女が無性に腹立たしい。

「ふぅ~ん…あぁ~…うーん…いないかも…」

「そうでしょうね」

「アナタは、何してる人なんですか?」

「ワタシはネイリストよ」

「ネイリスト…働いてるんだ~偉いな~」

「そうよ! 学生と違ってヒマじゃないの…じゃあね」

 琴音が席を立ちあがった。

(ホントはヒマ…仕事サボって…やることなんてなくて…初対面の女に八つ当たり…最低だ…ワタシ)

「あの~…言いにくいんですけど…」

「なに?」

「……お金…貸してもらえませんでしょうか?」

「はっ?」

「うん…お金…財布…3000円入ってると思ってた…1000円しかない」

「はっ?」

「2000円貸してほしい…」


「絶句したわよ」

「奈美…アンタ…バカなの?」

 華が奈美を軽蔑した目で見る。

「あの時はね~ビックリしたよね~いないんだもん英世が…アタシの英世、すぐ家出する~」

「英世だけじゃないわ…一葉も…諭吉に至っては寄り付きもしないの…奈美の財布には…」

 華が涙を溜めて…奈美の肩をポンポンと叩いて慰める。

「琴音! 奈美を責めないでやって! かわいそうな娘なの…賢いバカなの!」

「うるさいよバカコンビ」

「貸したの?」

「貸したわ、その時に名刺渡したの…店の」

「風俗の?」

 パカーンと叩かれる華。

「返ってこなくていいと思ったわ…奢ったと思えば…」

「返すって言ったのにさ~来ないのよ…待ってるって言ったのに~」

「行かなかったのよ…どうでも良かったし、翌日からファミレスで待ってらしいのよ奈美は1週間ずーっと」

「そいで?」

「うん…返しに行ったの~お店に」

「風俗店に?」

 パカーンと叩かれる華。

「予約してきたの…奈美、ネイルなんて興味無さそーな医大生が」

 クスッと琴音が思い出し笑いをした。

「なによー」

「そのとき初めて名前を知ったのよ…会ってビックリしたわ…2千円握りしめて会いに来たの、ありがとうございましたってね」

「ちゃんと返した」

「偉いわ奈美」

 華が奈美の頭を撫でる。

 エヘヘッと笑う奈美。

「でもね…この女! ネイルの代金払えなかったのよ! で…また…立て替えたのワタシが!」

「その節は…すいませんでした」

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