第37話 シュノ―ケラー奈美

 140cmそこそこの華の倍以上の巨体。

(目を逸らせば殺られる…)

 華は直感で理解していた…のだが…生憎ミノタウロスの目は横に付いていた。

 ブモォオォオオオオー!

 鼻息荒く、トマホークを振りかぶるミノタウロス。

「オンギャ―――!」

 華がミノタウロスの股を潜って琴音のほうに走ってくる。

 ちっこいが早い。


「なんでコッチにくるのーバカ!」

「だって…だって―」


 少し離れたところから華と琴音がでっかい牛に追いかけ回されてる光景を眺めている奈美。

 言葉が通じぬと判断してからの奈美の行動は早かった。

 そう…彼女だけは、海に細長い身体を沈め、いち早く隠れていたのだ。

 持参してきたシュノーケルが本領発揮していた。

(備えあれば憂いなし…先手必勝?)

 勝ってはいないが…。


「奈美は?奈美はドコ行ったの?」

 走りながら華が琴音に尋ねる。

「知らないわよ!1人でさっさと逃げたのよー 細長いから、どっかの岩場の隙間に挟まってんじゃないの?」

 走りながら華が、その姿を想像する。

「ギャハハッハー」

 思わず笑ってしまった。

(アイツラ~人をカニ扱いして~、助けてやんない!)

 地獄耳なのである…自分の悪口に関してのみだが。


 笑い過ぎて、華がミノタウロスに追いつかれる。

「あっ…バカ!」

 反射的に琴音が身をひるがえしミノタウロスのすねを蹴り上げる。

 ミノタウロスの動きが一瞬止まる。

「アイ ゲッタ チャーンス! ファイヤーボール!」

 華がミノタウロスめがけて火球を飛ばす。

 火球はミノタウロスのしっぽの先に命中、燃えるしっぽ。


 ブモッ?………ブモーッ!

 しっぽの異変に気付いたミノタウロスが砂浜を滅茶苦茶に走り回る。

「ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール!」

 火球の呪文を連発する華。

「殺っておしまい華! 今夜は焼肉よー!」

 琴音が叫ぶ。

「OK OK-」

 華はノリノリで火球連発…あたりに毛の燃える臭いが立ち込める。


 ミノタウロスは、海に向かって駆け出した…その先には……。

 カニ…ではなく奈美が潜んでいたのだ。

(なんでコッチにくるのよー)

 ザバッと立ち上がり、逃げ出す奈美。


「あんなとこに隠れてやがった…」

 琴音が肩で息をしながら奈美を眺める。

「華…ミノタウロス返すのしばらく待ちなさい…奈美の限界まで待ちなさい」

「御意」

 ゆっくりと砂浜にジャリジャリと魔方陣を書き始める華。

 黒焦げで怒り狂ったミノタウロスが奈美を追いかけ回す…その光景を10分ほど砂浜で眺めている琴音と華。

 バシャーン!

 良い音を立てて奈美が転んだ。

「なんで海から出ないのかしら…」

 華が首を傾げる。

「さぁ~…あの娘…頭いいけどバカなのよね~」

 琴音も首を傾げる。

「あっ!立ち上がった…」

「そろそろ返そうかな」

 砂浜に座っていた華が立ち上がり、小さいおしりに付いた砂をパンパンと払う。

「待って!、なんかしようとしてる」

 琴音が華を呼び止める。


 奈美はスクッと立ち上がった。

 細長い肢体…シュノーケルの先端をミノタウロスに向けてほっぺたを膨らましている。

 そして…ミノタウロスの横に回り、ビュッとシュノーケルから海水をミノタウロスのに吹きかける。

 海水が目に入り目を押さえるミノタウロス。

 そして奈美は、ミノタウロスの股間にウニを投げつけた……。


「華! 限界よ、撤収!」

「ラジャッ」


 …………

「かんぱ~い」

 缶ビールとグレープフルーツジュースで乾杯する3人。

 遅めのお昼はバーベキューである。

「ねぇ…バーベキュー味って結局、何味なんだと思う?」

 奈美が不思議そうな顔で琴音に尋ねる。

「考えたことなかったわね~」

「奈美…なんでバーベキューするの知ってて、おつまみにバーベキュー味をチョイスしてきたの?」

 華がバカじゃないのと言った顔で奈美に尋ねる。

「我が事なれど…それは謎ね…たまに自分が怖くなる…ゾクッとするわ」

「前から聞こうと思ってたんだけど…奈美と琴音は、なんで友達なの?」

「ん…知り合ったのはね~アタシが上京したばっかりの頃だったかな~」

 琴音が懐かしそうに語りだした。

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