第36話 迷いはじめたマイ・レボリューション

 そんなこんなで魔王の勧誘を断った琴音。

「とりあえず、なっとけばいいのにー」

 奈美がチョコパフェを食べながら琴音に話しかけている。

「いいのよ…ワタシ人間捨ててないから、アンタと違って」

「アタシだって捨ててないわよ~」

「んにゃ…奈美は手遅れね…借金の返済に8000年とか、人間の考えじゃないもん」

 華がホットケーキに嬉しそうにバターとハチミツを塗りながら奈美をケタケタケタと笑う。

「奈美はしょうがないわ…自業自得だもの…」

 チラッと奈美を見て琴音が興奮したように言う。

「ワタシのは事故じゃない!巻き添えじゃない!」

「まぁまぁ…野良犬に噛まれたと思えばいいじゃない」

 華が琴音をなだめる。

「噛まれたのよ!野良人面犬に!」

「落ち着きなさい琴音…お~よしよし」

 と琴音の喉をさする奈美。

 それを見て、アヒャハハッハハと華が笑う。

「アンタ達…ワタシはライカンなんとかになってから、基礎能力も上がっているのよ」

 琴音は片手でフォークをグニャグニャと曲げて華に放り投げる。

「大したもんね~奈美とは大違いだわ、こりゃ」

 華がフォークを指で摘まんでブラブラさせる。

「なによー、アタシだってねー……特に変わりはないけど…なんか…あっ!鼻炎が治った!」

「それは…関係あるのかしら…奈美」

 琴音が呆れたといった表情で奈美を見る。

 幸せそうである…生クリームを口の横に付けた淫魔。

(誘惑できそうにねぇー)

「鼻炎ねぇ~、琴音、鼻とか良くなってない?」

 華が真顔で聞いてきた。

「ん~どうかしらね~、言われてみればって感じはあるかもね」

「後、なんか変化してない?たとえば…毛深くなったとか?」

 奈美が琴音の手をサッと取る。

「なによ…」

「指毛とか?生えてんのかなと思って」

「失礼ね…そして…確認まで素早かったわね…」


(基礎能力が向上している…)

        ↓

      (強い…)

        ↓

     (クーデター!)

 ポクポクポク…チーン!

 華の短絡的な三段論法が弾いた答えとは…。

「強化合宿ね」

 ホットケーキを刺したフォークを高々と掲げて立ち上がる華。

「はっ?」

「来たるべき魔王討伐の日に備えるのよ琴音!奈美! 手を出して!」

「はっ?」

「いいから!」

 手を重ねて

「レーボリューション! おー!」

「えっ?」

「おー!」

 華が繰り返す

「……おー?」×2


「解り始めた♪マ~イ、レボリューション♪玉座に座るこ~とさ~♪淫魔と犬を連~れて♪My slave奴隷 My pet愛玩動物 走りだせ~る♪」

 華が上機嫌で誰もいない海岸ではしゃいでいる。

「ペットって琴音のことよね?」

 奈美が琴音に尋ねる

「だとしたら…奴隷はアンタのことね奈美」


「さぁ、ビシビシ行くわよー!マイ・ソルジャー」

「アイツの兵隊らしいわね…ワタシ達は…」

 琴音が砂浜に落ちていた流木を華に投げつける。

「なにが不満なのよ~、魔界で生き抜くってことは強くなくちゃいけないのよ」

「つまり…アンタに勝てば、このバカげたピクニックも終了すると…」

 琴音の指にグギッグギッと力が込められる。

「慌てなさんな、琴音さん、あんたらの相手はこれから召喚しますから」

「召喚?またゾンビ?」

「おったまげやがれ!三十路ーズ!」

 華が琴音が投げた流木を拾い、海岸に魔方陣を手早く書き込む。

「出でよ!ミノタウロス!」


 ブモーッ!!!!

 茶褐色のマッチョな牛頭が砂浜から現れる。

「あっ! 7枠の牛! その節はどうもありがとうございました」

 奈美が頭を下げる。

 そう、いつぞやレースで勝ったときのお礼である。


「さぁ、存分にレベルアップしなさい琴音! 奈美!」

 ビシッとポーズを決める華の鼻先にミノタウロスのトマホークがビュンッとかすめた。

「…………おや?」

「おや?じゃねぇ! またコントロール不可じゃない!」

 琴音が華に向かって叫ぶ。


 その頃、奈美は…流木をただ見つめていた…。

(コレ投げたら、琴音は走って取りに行くのかな~投げてみようかな~)


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