第35話 抹茶最強伝説
「いえ…先日の王宮での立ち回り…そして、現在はライカンスロープになられたとか」
桜が奈美の淹れた紅茶をひとくち飲みながら琴音に契約書を差し出した。
「その戦闘能力は飛躍的に上がっているはずです、魔王がぜひにと…申しまして」
「パパが?スカウトってこと?」
華がドーナツをかじりながら桜に聞く。
「えぇ…宮殿で視ていたようです、琴音さんへの評価は…人間にしてあの戦闘力は恐ろしい…だそうです」
「琴音…大暴れだったもんね~」
「アンタのせいでしょ!」
「うっ…面目ない…反省!」
「過ぎたことよ…琴音もコレ飲んで落ち着きなさいな」
奈美が淀んだ緑の紅茶?を差し出す。
「過ぎたこと?そうね! もう人間には戻れない過ぎた過去よー」
「そう悲観しなさんな」
華が琴音の肩をポンッと叩く。
「だから、アンタのせいでしょ!」
「水に流してよ…水洗トイレのようにキレイに流してよー」
「ジャバーってわけにはいかないのよ! アタシ狼になるんだよ、満月見ると狼になるのよ」
「狼じゃないわ…犬よ…琴音…認めたくないかもしれないけど…アナタは犬よ、牧羊犬」
奈美が真顔で会話に割って入る。
コクリと頷く華。
「だから、アンタのせいでしょ!」
スパーンと華の頭を叩く琴音。
「スマンかった、ソコだけはスマンかった」
奈美の淹れた紅茶をチビチビ飲んでいた桜。
「あの~そろそろ…お返事は…いかがでしょうか…琴音さん」
契約書を差し出す桜。
困ったような表情で契約書に目を通す琴音。
「えっ?」
「なにか?」
「こんなに貰えるの?」
「契約金と給金は、間違いないですよ」
ニコリと桜が微笑む。
チラリと奈美が覗き込む。
「えっ?アタシと大分違う…」
「そうなの?」
琴音が奈美の顔を見る。
「桜さ~ん」
「奈美先生は、戦闘要員ではありませんし…なにより給金から返済に大分回されてますので…」
「えっ…アタシ戦闘要員なんですか?」
琴音が桜に尋ねる。
「はい。あの格闘センスにライカンの能力を得たわけですから…そのポテンシャルを高く評価しております」
「でも…戦闘要員っていうと…あの怪人の左右でバッタの改造人間に一撃でなぎ倒されるアレでしょ?イーッってやつ」
「いえ…一般兵士ではなく一部隊預けても良いと魔王様はおっしゃっておりましたが」
「女幹部ね…ハイレグのボディコンアーマーを纏い…お色気要員ね」
納得したように華が頷き…語り…そして、
「コレね!コレが無いから奈美は給料が低いのね!」
華が琴音の胸を後ろから揉みしだく。
「ぎゃぁー」
琴音が奈美の淹れた紅茶を溢した。
琴音の白いスカートに深い緑のシミが広がる。
「バカ華!」
またバシンと華の頭を叩く琴音。
「姫の頭を軽々しく…琴音、配下になったら、そんな無礼許しませんよ!」
華が頭を抑えながら琴音に強がる。
「しかし…コレ…紅茶よね?」
琴音が奈美に尋ねる。
「ん?そうよ…和洋折衷がコンセプト」
「和洋折衷?」
華が紅茶の香りを嗅ぐ。
「ん~悪い香りではないんだけど…ウルサイのよ、この紅茶」
「んまぁ…ウルサイとは心外だわ」
「アンタ、何を混ぜたの?」
琴音が奈美に聞く。
「アッサム、ダージリン、セイロン、ニルギリ、アールグレイ…プーロン、ウーロン…抹茶…」
奈美が指折り宙を見ながら数えている。
「ちょっと…後半が、怪しくない?」
華が首を傾げる。
「なるほど…このボヤけた味は抹茶を殺しきれてない数々のお茶の残り香…」
桜が納得したように頷き、琴音の手を取り強く握る。
「まさに、この抹茶のように、殺しても死なない兵士として魔王軍の中核を担っていただけませんでしょうか、琴音さん」
「丁重にお断りいたします」
部屋の隅で膝を抱えて座り込む奈美…
(不味いんだ…桜さんの口に合わないんだ…)
反対側でベランダで拳を握る華…
(パパも認める戦闘力…クーデターの要が、こんな身近に…)
「なぜ?ですか…」
「もう少し…人間でいたいんです…アタシ」
「それは…手遅れよ琴音」
華が振り返りビシッと琴音を指さす。
「それが、お前のせいだと、まだ解らんのか!」
琴音が華にクッションを投げつけた。
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