第34話 仕事してます。

「うちで働きたい?えぇ…いえ…ウチは心療内科でして…はい…イメージクラブではありません…」

 奈美が溜息をつきながら受話器を置く。

「また間違えられたの?」

「ふぅん…なぜなのかしら…なんだと思ってるのかしら」

「なんだって…風俗と思われてんじゃない」

「なんでだろう…」

「もう…廃業して、風俗にしちゃえば?」

「バカね華…アタシ、勉強以外スカなの…それしかしてこなかったの…人の役に立ちたいって思って…でも外科無理で…内科もちょっと…で、臨床心理士になったの消去法で…」

「うん…なんか解るよ、奈美って大体、消去法で生きているな~って思うもの」


「で…今日の予約は?」

「夜に桜が来るわ…」

「桜さん…薬変えようかしら?効いてるのかしら?心配だわ…」

「医者のセリフじゃないわよ…奈美」

 華がミニチュアネッシーにカメのエサを与えながら呆れたように奈美を見る。

(ネッシーのエサ…金魚のエサに変えてみようかな…)

 2人の思考のベクトルは同じ方向へ向いていた…。

[与えるものを変えてみようかな~]


「おこんばんわー」

「琴音!」

 華が暇そうに受付でミニチュアネッシーに玉乗りを仕込んでいると琴音がクリニックへやってきた。

「奈美は?」

「今、桜が来るから新作の紅茶をブレンド中」

「なんで?仮にも医者が患者が来るのにカルテを確認するとかないのかしら…紅茶ブレンドして患者を待つって…どうよ…」

「失礼ね!ここはカウンセリングするところなんですー、リラックスも必要なんですー」

 奈美が奥から顔を出す。

「何の用なの?お金無いわよアタシ」

「知ってます。風俗まがいのクリニックにお金が無い事は承知してます」

「風俗まがいとは!失礼ね、ねっ華」

「そうよ琴音、今朝も嬢の面接してますかって聞かれたけど…風俗まがいとは、訂正して頂戴!風俗のクリニックってね」

「バカにして…2人してアタシを馬鹿にする~」

「アンタに用事じゃないのよ、桜さんに呼ばれたのよアタシ」

「はっ?」×2

「うん…なんかお話がって…将来のことだって言ってたけど…」

「は~?!」×2


「どうゆうことよ」

 奈美が小声で華に聞く。

「将来のことって…ね~半不死身のくせにね~」

 華が奈美に耳打ちする。

「アタシ、ほら、結構こういうの慣れてるから…フフン」

 琴音が見下す様に髪をスイッとかきあげる。

「まぁ~ご覧になりました?奥様」

 華が芝居がかって奈美に振る。

「ねぇ~犬のフェロモンかしらね…あ~獣臭い…あら琴音さん…最近、毛深くなられたんじゃありませんこと?」

「オホホホホホッ」×3…。


「相変わらず仲がよろしいようで…」

 いつのまにか桜が受付に立っていた。

 相変わらず…影が薄い…というか気配が無いというか…。

「桜さん…カウンセリングルームへどうぞ」

 奈美が部屋へ促す。

「桜、おひさ~」

「姫…たまにはお帰り下さいね…」

「いやっ」

 プイッと顔を背ける華。

「琴音さん…診察後、少しお話が…」

「あらっ…ここでですか?場所を変えてもよろしいんですけど…」

「いえ…皆さん一緒の方が都合がいいのです」

「ん?…そう…そうなんですか?」

「はい」

 ニコリと微笑む桜。


 奈美と桜がカウンセリングルームで診察している間…。

 華と琴音は、ミニチュアネッシーの名前について話し合っていた。

「ミニッシーとか?」

「琴音…言いにくいよ、小さい『っ』が邪魔」

「ミニシーならいいの?」

「なんか…語呂が気持ち悪い…そうね~アネッシーとか」

「ミニッシーと何が違うの?」


「お待たせしました…早速なんですが、琴音さん、魔王の配下になっていただけませんか?」

 桜が真顔で切りだした。

「はっ?」×3

 思わず身を乗り出す3人であった。

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