第32話 薄まる感染症

「噛まれたのよ…」

 琴音がペリエを飲みながら呟く。

「ん?」

 奈美がナポリタンを口に含みながら琴音の顔を見る。

 華はミニチュアネッシーとピンポン玉で遊んでいる。

「だから、ゾンビに噛まれたのよ」

 スラックスを捲り上げ、琴音がふくらはぎを奈美に見せる。

「どれどれ…あ~歯型だね…歯並びいいね~コレ人なのかな?」

「歯並びとかいいの!人じゃないわ、ゾンビだもん」

「ゾンビになるの?なんか仲間だね」

「嫌よ…ゾンビって嫌よ…食欲も無いのよ…なんか怖い」

「水飲んでるじゃん」

「デトックスよ! なんか出す気がするでしょ?天然炭酸水って悪いモノを」

「気のせいよ!琴音…ペリエでゾンビ化を防げたら…映画にならないわ」

 キッパリと琴音の、かすかな希望を悪気なく否定して、トンチンカンな持論を混ぜて医者っぽく振る舞う。

「大丈夫~琴音?なんかお薬無いの奈美」

 間延びした口調でアクビしながら慰める華

「アンタのせいでしょ!あのゾンビわ!」

「うっ…そうだった…スマンかった」


「薬は無いわ!」

「ココには期待してないわよ、華!魔界でなんか手に入れてらっしゃい!」

「え~そんな便利なの聞いたことないよー」

「探すの!いい!」

「別にいいじゃん…ゾンビだって…アタシの配下に加えてあげるわよ、巨乳ゾンビとして」

 ゴチンとぶたれた華。

「いいこと!探すのよ!」

「はい…善処いたします…」

 なぜか奈美も正座で並んで琴音に謝る。


 魔界のプリンセスと悪魔をひざまずかせる人間(♀)琴音。

 巨乳の威厳であろうか…。


「とはいえ…どうしたものか…」

 夜になり華が頭を抱える。

「桜さんとか知らないの?不死仲間?として」

「桜ね~…う~ん…不死の概念が違うよ~な…現状維持と腐り続ける違いはあるけど…それが決定打のような…」

「今度聞いてみよ~」


 ………

「ゾンビ化ですか…う~ん難しいですね~…姫の妖力も相当に強いですからね…呪いみたいなもんですし…」

「薬飲んで寝てればいいってもんじゃないんですね…」

「先生…もう少し悪魔の自覚を持たれた方が良いと思います…」


「そうなの…でも桜、調べてくれるんでしょ?」

 華が大きなビニール袋に草を詰め込んでいる。

 魔界第2公園でフランケン(仮称)さんと雑草…薬草を手当り次第詰め込んでいる。

「でも自信なさそうだったよ~」

「でしょうね~アタシが呪ったんならね~間接的に噛まれたとなると…もうアタシのせいじゃないというか…」


「で?どうなのよ?アタシどうなるのよ?」

 琴音がペリエをガブ飲みしながら問い詰めてくる。

「今はペリエで抑えているからいいけども…」

 華は思った。

(抑えられているのだろうか…)

「なんで噛まれるとゾンビになるの?」

 奈美がラッキーターンを食べながら華に聞く。

「感染的なアレじゃない…お約束というか…」


「なんか熱っぽい…午後から休む…ここで寝てく…」

 琴音は半休を取って、奈美のクリニックのベッドで眠った。

「なんでカウンセリングルームにベッドがあるの?」

 華が奈美に聞く。

「ん…雰囲気」

「形から入るタイプだもんね」

「ふぅん♪」


 綺麗な満月がリビングを照らす夜。

 遠くで狼の遠吠えが聴こえる…梅田さんかな…元気そうだ。

「アォーンー」


 遠吠えが近くて聴こえる。

「奈美…梅田さん今日、来る日だっけ?」

「ううん…」

 華が診察室に走る。

「華、どうしたの?」

 奈美も華を追いかける。


「遅かった…というか…間違ってた」

 華が自分の顔を押さえる…。

 診察室にはシェットランドシープドックが1匹…月に向かって吠えている…。

 腰には、派手なブルーの大きなブラジャーがぶら下がっている。

「あれは!…まさか琴音?」

「ハッハッハッハッ…」

 舌を出して奈美に擦り寄るシェルティ。

「なんとなく…嫌な感じはしたのよ…歯形が犬っぽいな~って…」

 華がアチャーと言った顔でシェルティを眺める。


 ………

「で?アタシは犬になったわけ?」

「シェルティだったわ…ねっ」

 コクリと華が頷く。


「アタシ…狼女になった…そういうわけね…」

「おそらく噛んだのは梅田さんと思われます…中途半端な感染というか…血が薄まったというか…なぜにシェルティかは謎ですが…」

 奈美が医者らしく足組みしながら琴音に説明する。


「悪魔の仲間入りってわけね…梅田…ぶっ殺す!!」

 琴音が怒りをかみ殺して呟く…。

 華が嬉しそうに…楽しそうに、琴音の肩を叩く。


「正確には犬女だけどね…ドンマイ」

 グフフッと奈美が笑う。


                         サキュバス編 完

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