第31話 人はソレを誘拐と呼ぶんだぜ…

 人型に戻った桜の背後でしゃがみこむ奈美。

 目は閉じているが、鋭いナニカで切り裂く音…突き刺す音が響く…。


 ここは城内の中央の間。

 四方からワラワラとゾンビやらスケルトンやらが飛び出してくる。

 正直、桜の敵ではないのだが…数が…無限増殖している。

 短気な琴音はすでに壁に掛けてある様々な武器で桜の援護に回る。

「琴音さん…」

「なに!?」

「お強い…」

 桜もビックリの戦闘力…。

「奈美!」

 琴音が奈美にメイスを放り投げる。

「へっ?」

「潰しなさい!」

「えっ?」

「早く!」

 ポカポカといい音がするスケルトンの頭を叩く奈美…悲しいほどに戦闘力が…。

 劣勢…応戦で手一杯…。

「しかし…どこから湧いて出てくるのよ、このゾンビは?」

 琴音がイライラして喚く。

「コレは…姫が…無意識に召喚しているのです」

「華が?…困った娘ね~反抗期かしら?」

 琴音がスケルトンの頭をモーニングスターでガシャッと砕きながら首を傾げる。

「しかし…進めませんね…」

 桜も困ったな~という顔をしている…強くは無い…うざったいだけ…なのだが、数が多すぎる。

「助けにきましたよ…先生」

 ゾクッとした冷気が正面から吹いてくる、ゾンビがビキビキッとゾンビが氷漬けにされていく。

「冬月さん…みんなも…」

 凶悪そうなウォーハンマーをぶん回す松下さん…どうやらダメなほうの人格がでているようで愉しそうだ。

 空中でグラディウスが揺れている…たぶん濃野さん。

 スーツ姿の天狗が鉄扇子でゾンビを切り裂く、長井さん。

 反対の扉から大男がヌッと表れる…フランケン(通称)さん。

「わん!わーん!わーーん!」

 梅田さんもいる…ようだ…たぶん走り回っているような気がする…。


「先生…この先の扉を開ければ姫の部屋です」

 桜が扉を開ける。

「急いで取り戻してらっしゃい!奈美!」

「うん…行ってくる…みんな、ありがとう…」


 白衣で走る奈美…部屋の前に立つとソレと解る妖気が立ち込める。


「開けるわよ…華…」

 ギギッと扉が開く、部屋の中央に華が座り込んでいる。

「華…」

「来るな!バカ奈美!」

「……華…一緒に暮らそう…アンタが飽きるまでさ…」

「嫌だ!オマエと暮らしてると…おっぱいが大きくならない!」

 奈美に背中を向ける華。

「なんですってー!アンタの胸が成長しないのは遺伝よ!きっと、アタシのせいにしないでちょうだい!」

 ツカツカと華に近寄る奈美。

「ここから入るな!」

 指で床をなぞる華、ボワッとオレンジの境界線が引かれる。

 奈美のつま先が線に振れるとバチッと感電する。

「イタッ!…華!バチッしちゃダメ!」

「うるさい!アタシは姫だぞ…オマエなんかアタシの配下の配下なんだぞ…近寄るな!貧乳悪魔!」

「空中!」

 奈美が手を伸ばして…華の頭を撫でる…。

「……空中も…ダメ……」

 奈美に抱きついて泣き出す華。


「バカ…」

 抱き締める奈美。


 2人が手を繋いで中央の間に戻ると床に座り込む面々。

「終わったのね…疲れたわよ…ダイエットになったかしら?」

 化粧が落ちかけた琴音が華を見る。

「胸が凹めばいいのに」

 華が悪態を吐く。

「アンタ達みたいになるには、もう100戦くらいしないとね凹みそうもないわ」

 琴音が笑う。

「達…アタシもなの?華よりは、ある気がするんだけど…」

 奈美が自分の胸をサワサワと撫でる。

「そう変わりませんよ」

 桜さんが真顔で言う。

 華と奈美が顔を見合わせて…溜息ついて項垂れる。


「奈美さん!」

 2階の通路からお母様が見下ろしている。

「ラスボス登場ってヤツかしら…」

 琴音が肩に掛けたモーニングスターに手を掛ける。

「女王さま…」

 桜さんが何か言いかけた時、

「しばらくの間…娘をよろしくお願いします」

 お母様は、奈美に頭を下げて奥へ下って行った。

「いじけて腐敗臭撒き散らすような娘ですが…華!掃除が終わって匂いが抜けるまで帰ってこないで頂戴」

 捨て台詞を残して…。


「帰ろう♪華」

 奈美が華の手を引く。

「うん」

 華が笑顔で頷く。


 泣いたカラスが笑った…。

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