第30話 カウンセラーでした…

「お迎えに来ましたよ姫」

「行かない…行きたくない…華悪くない…」

 ダンボールに閉じこもる魔界のちっこいプリンセス。

「はぁ~」

 桜がダンボールをコンコンと叩きながら懸命の説得を試みること数十分が経った…。


 家主奈美は部屋の中で…蚊帳の外。

 隅っこで水槽にメダカをポチャッと泳がせる…ミニチュアネッシーがメダカを追廻し~パクッと咥える様子をニヘラッと笑いながら見つめている…。


「奈美~アンタからも言ってやってよ~」

 華がダンボールの中から奈美に催促する。

「華…1度帰ったら?また来ればいいじゃない」

「姫…そうなさってください…とりあえず、1度帰っていただかないと…」

 桜も困っている。

 力ずくで良ければ、あっという間に連れ去られるのだろうが、まぁ辛抱強く説得を続けている。

「華…帰りなさい…」

 奈美は相変わらず、部屋の隅でミニチュアネッシーを構いながら、静かに言う。

 堪えきれなくなった涙が奈美の顔をつたう。

「ふぅぅ…」

 奈美の声の変化に気づいた華が声を出して泣きだしダンボールから這い出る。


「荷物置いてくからね奈美」

「ふぅん」

 奈美がまた泣き出しそうに頷く。


 桜に連れられて、華は窓から飛び立った…。


「で…華ちゃん帰ったのね」

「ふぅん」

 琴音が紅茶にハチミツを溶かしながらグスリ、グスリと泣く奈美を見ている。

「2週間音沙汰なし…と」

「ふぅん」

「手紙の一つも無いってのはね~」

「…………」


 その夜…ボケーッと窓から月を眺めている奈美。

 ミニチュアネッシーが水槽の岩場で同じようにボケーッと休んでいる。

 大きな満月に蝙蝠のシルエットが浮かぶ…(蝙蝠男…?)

「奈美先生!」

 シルエットが目の前にシュッと寄ってくると、黒いスーツ姿の桜さん。

「桜さん…時間外ですが…深夜料金で良ければ」

「違います。診療ではありません。姫が…」

「姫…華が?」

「自主的な軟禁状態でして…」


 桜さんの話によると…。

 自分で呪詛による結界を轢いて引き籠っているのだそうだ…。

「で…アタシにどうしろと…」

「助けてください…を…華はアナタの所で暮らしている方が楽しそうだ…城で暮らすより…今だけでもいい…今は華にとってココに居た方がいい。あの子は笑顔が増えたんだ、ココで暮らして、あなた達と暮らして…」


 華にとって、城の暮らしは性分に合わないのかもしれない…だから別の魔界を創るとか言い出すのかもしれない…。


「先生…お願いします…華の心を和らげることが出来るのは…お願いします」

 桜が頭を深々と下げる。

 桜の頭をポンッと叩いて

「任せてください! …カウンセラーですから!」

 奈美がドンッと無い胸を叩く。


 桜さんの背中に乗って飛翔する奈美…と…琴音…。

「なんでアタシまで行くの?悪魔の巣に人間が飛び込んでもロクな目に合わないと思うんですけど!」

 琴音が暴れる。

「魔王の城よ!アタシも怖いの…独りじゃ嫌なの…解って…ねっ空気読んで!」

「嫌よ!悪魔城ドラキュラだもん!あのゲーム難しかったもん!クリアできなかったー!」

「大丈夫ですよ琴音さん。ドラキュラさんは居ません。あの方は別魔界の王ですから」

 桜さんのズレたフォローが入る。

「ドラキュラに『さん』だもん…魔界イヤぁー!」


 桜が空間を羽で引き裂いて

「行きます!…城まで…華の結界の前まで一気に突っ切ります!…道中の雑魚はお任せください」

「道中に雑魚が居るの?…やっぱイヤぁー!」

 琴音が喚く。

「大丈夫よ…アタシも悪魔だもん…」

「……アンタど底辺悪魔じゃ……」


 キンッと耳鳴りがした…空の色が変わった。

『おいでやす…アンダーグラウンド』

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