第28話 魔力の源 Dr Pipper

『まぁ、なんということでしょう…匠の悪ふざけで親子喧嘩、白いクリニックがこんなことに…」

 部屋の真ん中でミニチュアネッシーを抱きしめて涙目でオロオロしている奈美。

 アワワ…アワワ…としているうちに、華がお母様に踏みつけられていた。

 ジタバタと、もがいている。

「ホホホホッ、魔力切れかしら華さん?」

「ババアー」

「相変わらず…お口が悪いようで…少し黙ってなさい」

 お母様が指で華の唇をそっと撫でると、華の口が大きなマスクで塞がれる。

「ンゴッ…フモモッ…」

 どうやら、しゃべれなくなったらしい。

 踏んづけられたまま、それでもバタバタと足掻く華。

「はぁ…落ち着きのない子だこと…誰に似たのやら…」

 また、指をクルンと回すと手枷・足枷がバチッと嵌められる…。

(これが妖狐の力か~)

 奈美が感心したようにウンウンと頷く…。

「お世話になりましたね…あっ、リフォームの方は手配しますから、御心配なく」

 と奈美に背を向ける、フサフサの尻尾が優雅に揺れる。

 思わず触ってみたくなる、そんな衝動に駆られそうな奈美…視線を華に向けると、華が目で尻尾を見ている。

(華も触ってみたいのね…)

 ではなく…しきりに目で訴えている…指をチョキにして、しきりに動かす。

(ん…尻尾…チョキ…ハサミ!…チョンッ…切れ?)

 華は奈美に尻尾を切れと言っている。

(えっ…無理、無理、怖い…アタシ外科じゃない)

 ジェスチャーで拒否る奈美。

 華が目でベランダを見る。

(高枝切りバサミ…)

 なんとなく通販で購入したまま放置された高枝切りバサミ…。

(え~…やるの~)

(急げ!バカ奈美!キツネの尻尾をチョン切れ!)

 華の言いたいことが、よく解る…。

 背中を向けている今がチャンス…華を引きずりながら帰ろうとするお母様…。


 ジャキンッ!…ボトン…床にフサフサの尻尾が落ちる…。


「ん?…………イデェーーー!」

 お母様が尻を押さえて、しゃがみこむ。

「貴様ー!よくも…引き裂いてくれんぞ!コラァ!」

(アワワワワ…やっちゃった…ヤバイ…想像をブッチギリで超えてブチギレだ)

 奈美が逃げようとしたとき

「ババアー…よくもやってくれたな…あーッ?」

 華が立ち上がる。

 お母様の妖力が切れたのか?お母様が妖狐から人間へ…そして今は白いキツネに姿を変えた。

「ウハハハハッ…決まりだな~覚悟せぇやー!奈美!アレを!」

「へっ?アレ?…あーアレね」

 いそいそと冷蔵庫から『Dr Pipper』の350ml缶を華に渡す。

 プシュッと開けてグビグビッーと飲み干す華。

「くはぁー…ゲップ…」

 唇を拳で拭う華

「満ちてくる炭酸!独特のフレーバー!湧き上がる魔力!」

 両手で素早く印を描く

「逃げらんねぇぞークソギツネ~…くらえ!ライトニングボルトー!」

 華の指先から稲妻が、お母様キツネめがけて、すっ飛んで行く。

 ピシャーン!部屋に稲光が走る…尻尾を切られたせいでバランスが取れない、お母様キツネを直撃した…黒焦げで倒れる、お母様キツネ

「ザマねぇなーHo-…アイム・ウィナー!」

 華が飛び跳ねて勝利の雄叫びをあげ

「シュート!しばらく養生してろ!」

 と、お母様キツネを窓から蹴り飛ばす。


 奈美は思った…。

(リフォーム代は払ってもらえるのだろうか…)


「忘れ物だ!ババアー」

 華が窓の外にフサフサの尻尾を投げつける。


 尻尾を咥えて、コチラを睨む、お母様キツネの目を見て、奈美は確信した。

(無理だ…払ってもらえる気がしねぇ…)

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