第26話 つかのまハイソサエティ

「いや~驚いたわよ…頭からサンローラン・シャネル・フェラガモって感じでブランドで武装したような女だったわけよ…」

 琴音が身振り手振りで客の話をしている。

 琴音の話では…

 帽子はイヴ・サンローラン、スーツはシャネル、靴はフェラガモ、黒髪ロングを無造作に束ねながらも…いい女系のオーラ全開、まぁまぁイライラしたそうだ。

「嫉妬ね」

 奈美がフッと鼻で琴音を笑う。

「嫉妬することわ~ないわよ…アタシ達だって…サーロイン・白トリュフ・フォアグラを召し上がっているじゃない」

 グサッとフォアグラをフォークで突き刺す華。

 そう…奈美のあぶく銭は、まだ健在、ランチからハイソサエティなのである。

 たぶん…短い期間限定の…。


「奈美、そろそろ行かないとだよ」

 華が奈美を急かす。

「ん?なんか用事があるの?」

 琴音が奈美の顔を見る。

「ふふふ…患者が来るのだー」

「来るのだー」

 奈美の言葉に華が続く。

「んまぁ…何日ぶりの?」

「8日ぶり…かな…」

 華が答える。

「予約はいつでもOKだから」

 奈美が琴音にウインクする。

「エブリデイ・エニタイムOK」

 華が琴音にウインクする。


「ヒマなのね…借金大丈夫なの?」

 奈美の金で、お高いランチを食べながら奈美の借金を気に掛ける琴音。

「問題ないわ。1年1万円で返しても返済できるって悪魔って素晴らしい」

「8000年掛かるのよ…8000年よ…8000年前ってマンモスを狩ってた頃よ…たぶん」

「8000年後か~…どんな生き物が地球を闊歩しているんだろう…」

 奈美の楽しそうな顔を見ていると琴音は思うのだ…。

(うっかり人類が滅びていても…コイツとゴキブリだけは、しっかり生きていそう)


 クリニックに戻って、華がナース服に着替える。

「奈美~あと20分くらいで来るよ~」

「解ってる…白衣さぁ~白とピンクのどっちがいいかな~」

「白衣なのに…ピンクがあるの?」


 ピンポ~ン♪

「来たー!8日ぶりの客来たー!」

 華がイソイソと玄関へ向かう。

「いらっしゃいませこんにちわー、当クリニックへようこそーポイントカードお作りしましょうか?」

「結構よ!華…アンタの様子を見に来ただけだから…」

「へっ?…GYAAAA-My Motherー」

 華が叫ぶ。

「どうしたの?華?あっ!頭からサンローランSシャネルCフェラガモF…だ」

「あわわわわ…」

 這うように奥に下がろうとする華。


「奈美…逃げるのよ…勝てる相手じゃないわ」

「なに?琴音が言ってたS・C・Fよたぶん…今日はどうされましたか~?」

「どうされた?じゃないの…どうしてるかを見に来たのよ…挨拶が遅れまして…華の母でございます」

「へっ?ご丁寧に…アテクシ当クリニックのカウンセラーでございます」

「存じていますよ…サキュバスの奈美さん」

 ニコリと笑う…細い目が笑っていない華の母。


「華を連れ戻しに参りましたの…アタクシ」

「へっ?」

 不敵に微笑む華の母と、呆気にとられる奈美であった。

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