第25話 悪魔とは寿命とは…

「今日のお酒が飲めるのわ~奈美さまのおっかげで~す」

 琴音が上機嫌で、ワインを煽る。

「いや~まさかの牛に掛けてるとはね…」

 華が感心している。


 あのまま…人間界に戻ったのだ。

「牛に負けたのよー、牛を食いつくさなきゃ治まらないー」

 琴音が暴れるので、お高いお店の個室なんぞで盛り上がっているのである。

「牛、美味い…ほかほか弁当と違う…牛…おいひい」

 奈美…久しく肉と言えばハムだったもので…ペラペラの、厚みのある牛さんのお肉が嬉しくて、嬉しくて…。

 涙がでちゃう…。

 華も感激の美味しさである…。

「もう一皿…サーロインとやらをお願いします」

 ステーキが素敵な食べ物だと、久しく忘れていたのである。

「肉って感じよね~ステーキってさ」

「ちょっとハムにゃ出せないわね…」

 奈美と華が言う、ハムとは…スーパーで売ってる丸いハム…出来るだけ枚数の多いヤツ。


「こういうお店に来ると解っていたら…余所行よそいきで来たかったわ~」

 もはや、下着が見えていることなど、お構いなしになっちゃった琴音…ワインをラッパ飲みである。

「余所行き…昭和語出た」

 華が琴音を馬鹿にする…そしてスパーンと頭をはたかれる。

「奈美…琴音が淫乱で怖い…」

「華…酒乱よ…淫乱とは違うのよ…琴音は久しく恋人が居ません」

「大きなお世話よ!貧乳ーズ」


 華がサーロインなる牛焼きを3枚食べ終わる頃…。

「フカヒレ食べよう!」

 酒乱がコラーゲンを欲した。

「ここ…フカヒレ無いよ…」

 そう…普段、奈美の目には止まらないお店。

 奈美にとってのアンダーグラウンド高級なお店である。

 酔っぱらった琴音は、さらなる魔界へ奈美を誘おうとしているのだ。

「恐ろしい女ね…人間の欲とは底なしなのね…」

 悪魔(低級)らしいセリフを吐く奈美。

「奈美より琴音の方が悪魔に向いているよーな…なんかエロいし…顔が…」

 華が奈美と琴音を交互に見比べる、右手には牛肉が刺さったフォークが握られている。

 小さなお口の中で牛肉をカミカミしながら…。

(顔…琴音エロい・奈美サッパリしている。身体…琴音エロい・奈美スッキリしている。)

 総じて琴音はエロい。

「ねぇ琴音…自分のお店、持ちたくない?」

「ん?自分の店…憧れの様な~面倒くさいよ~な」

 琴音はネイリストである。

 一応、固定客が付いているので、まぁ普通のOLよりは稼いでいるらしい…堅気のOLである。


 店を変えて…中華料理店、別魔界である…奈美にとっての。

 フカヒレスープをグビグビッと飲み干す酒乱と愉快な仲間達。

「ねぇ…琴音…さっきの話」

「ん…考えとく…割と前向きに」

「ホント?」

「ん」

「悪魔に、なればさ~寿命だってほとんど無限だし…歳取らないし…ずっと一緒に居られるんだよ…」

 ちょっと言葉の後半は小声だった…華。

「悪魔って死なないの?」

 奈美が食べなれないフカヒレを口に入れたまま華に聞きかえす。

「アンタ…知らないの?悪魔に寿命という概念は無いわ…」

「ホント?凄いじゃない、歳とらないの?アタシ、リアル三十路の直前でキープってこと」

「借金返すまではね…解ってる?なんで債務者が悪魔になるのか?」

「ん…解んない」

「永遠に返済させるためよ…契約ってそういうものよ…」

 華が歳に似合わない目で奈美を見る。

「そっか…年1万円で8000年かけてもいいわけだ…」

 そういう意味じゃねぇー。

 無言で頭を抱える華。

 その頭を紹興酒を片手にグリグリッと撫でる琴音。

 琴音には華の言いたいコトも…思っているコトも解っている…酔っていても。


 この時間を止めたいのだ…。

 ずっと…こうして暮らせたら…無くしたくないから…止めたい。


 そんな思いが遠まわしに口に出た華。

「考えとくよ…華」

 小さく呟く琴音だった。


「さぁ!フカヒレ食うわよ!」

 琴音がフカヒレを豪快に口に運ぶ。

「若さを保つためにね…グフフフ」

「アンタら若くは無いわよ…」

 華がボソッと要らぬことを口にする。

 スパーン×2で左右からはたかれる…。


「ゴチでした奈美さん」

「ヨロシクテヨ…」

 支払いを済ませて…テンション下がる奈美であった。

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