第13話 奈美 in Wonderland

「ヒマ~」

 はなが必要以上に大きな声で叫ぶ。

 豆乳ティーを飲みながらジロッとはなを睨む奈美。

「なんか魔法で面白いことしてよ」

「アンタ魔法をなんだと思ってるの?」

「怪人と戦う…なんか…力…的な?」

「ねぇよ!怪人と戦う機会ねぇよ!」

「ないの~…がっかりだね…じゃあなんで魔法覚えたの?」

「なんで?…そりゃあー…………なんでだろ?」

 腕を組み、首を傾げるはな


 2人でアイスを食べながら、ベランダで揺れるAcupのブラを眺めるお昼。


「奈美…ショーツ派手だね」

はな…アンタの単色ばっかね」

「元がいいからねー飾らなくても中身で勝負できるからー」

「うっ…自信が無いわけじゃないのよ…似合うじゃない、アタシにあのショーツ」

「見せる相手もいないのに…」

 どうにも口が達者な13歳…黒髪パッツン、ゴスロリ…夏の似合わない魔法少女。


「夏は琴音の季節よね~」

 奈美がボソリと呟く。

「水着がねー際立たせるのよね…」

 溜息をつくフラッターズ。

「アンタさぁ~、ちょっと琴音に変身してみなさいよ!」

「無理ね…」

「なんで?桜さんの変身は見事だったわよ~わかんなかったもん、アタシ」

「変身ってねー簡単じゃないのよー対象をイメージすることって、ディティールの

 正確さがねー大事なのよ、適当なイメージだと、ぼんやりしちゃうのよねー」

「ぼんやりね~」

「そう…今、琴音に変身すると子供の落書きが3次元に滲み出た感じになるわね」

 ふ~んとちょっと考えて、

「やってみて…」

「はい?」

「やってみて!見たいの、落書きの具現化を見たいの」

「え~やるのー」

「居候!」

 ピシャリと奈美がはなを睨む。


「ぶーっ!」

 頬を膨らましながら、集中するはな

「ふ~ん、ふ~ん、はぁ~、んんー…ハッ!ゲッチュー!」

「なにが?」

 ボワンッと煙が立ち上り…煙が晴れると………。

 ぶわはははははっ!

 奈美がアイスを振り回しながら大爆笑。

 胸が強調された子供の落書きが立体になって目の前で項垂れている。

 琴音だよ…似てるよ…。

「琴音に見せたい~」


 ………………♪♪………………

「と…こうなるのよ」

 はながボワンッと、もとに戻る。

「カラスはちゃんとしてたのに~飛べるし~」

「カラスとか猫とかはデフォなのよ、魔女の歴史の積み重ねが成せる業ね」

「楽なのね」

「うん…まぁ…誰でもってわけではないんだけどね…出来るね」

「じゃあ、桜さんは?」

「毎日…毎時間…考えてればーねっ♪」

(ねっ♪…じゃねぇよ…)


 ………………♪♪………………

「で…ヒマね~」

 アイスも3本目を迎えていた。

「奈美って、誰にも逢わなくても化粧するのね…歳だから?」

「魅力の足し算をしているのよ」

「マイナススタートだから?」

「うー…ううー…ギィー!」

 地団太を踏む奈美。

「アタシも奈美に化粧教えてもらおうかな」

 はなが奈美をマジマジを見つめる。

「マイナススタートだから?」

「うっ…」

 小さくガッツポーズする奈美。


 ………………♪♪………………

「どっか連れてって奈美」

「どっかってドコ?」

「涼しくて、楽しくて…」

「安いトコ!」

 奈美がはなの言葉を遮る。

「アンタ、魔法で何か出来ないの?」

「う~ん…………」

 悩みはじめるはなを横目に鏡の前で化粧を直す奈美。

「あっ!奈美…鏡の国行く?」

「鏡の国?」

「そう、鏡の国」


 ………………♪♪………………

「鏡って反射よ…中に国とか無いわよ…アリスちゃん」

「バカね~鏡を使ってパラレルへ移動するのよ」

「パラレル…異世界?」

「異世界というか…別の可能性というか…まぁ、似て非なる世界ね」

「行く!」

 ヒマも手伝って割と即答だった。


 ………………♪♪………………

 合わせ鏡に挟まれて、はなが呪文を唱える。

 なんだか目が回ってきた奈美。

(うっ…気持ち悪い…)

 と思ったら…目の前は湖…広い湖。

 木陰でちょこんと座っていた。

「行くわよ奈美」

「うん♪」


 昭和な街並み、なんだか奈美が産まれる前の日本って感じだ。

「CDは売ってる~アーティスト?誰も知ってる人いない~」

「微妙にズレた世界だからね、2時間くらいしか居れないからね」

「それ以上居たらどうなるの?」

「正しい手順で帰らないと、強制排除されるわよ」

「強制送還ってこと?」

「そう…ただし、元の世界とは限らないけどね」

「どうゆうこと?」

「彷徨うのよ…死ぬまで、似て非なる世界、その似て非なる世界って具合に、最後には、かけ離れた世界で生涯を終えるのよ…大体は」

「なんか怖いね~」

「そう…余裕を持って、さっきの場所へ戻るのよ…いい?余計なことしないでね…観光よ、観光だけよ…美術館の感覚でお願いね…奈美」

「うん…大丈夫…余計なことしないよ~」

(なんかしちゃいそう…するわよってオーラ出してる)


「奈美…何見てるの?」

「このペットショップ…ネッシー売ってる」

「うん…小型水棲恐竜はじめました…って書いてあるね」

「すいませ~ん…ネッシーいくらですか?」

「奈美!買わないの!買ってどうするの?」

「買って…飼う…」

「ダメ!」

「500円…欲しい…ネッシー飼いたい」

「ダメ!」


 ………………♪♪………………

 その後も、ブラブラと街を歩く2人…似て非なる街は、それなりに面白かった。

「お土産に…」

 奈美が、ごねるのでお菓子とCDなどは許可した。

 見知らぬ人のCD…見慣れぬお菓子…ビニール袋にいっぱい入れて楽しげな奈美。

「そろそろ帰るわよ奈美」

「うん…また来ようね~」

「この世界に来れる保証はないけどね…」


 ………………♪♪………………

 戻った2人…。

 奈美が風呂場に水を張る。

「お風呂入るの?」

「ん~ん…水槽ないからとりあえず…」

「なに?水槽?なに…」

 はなが風呂場を覗くと…。

 ポチャンと浴槽で泳ぐネッシー。

 ぴぎーと可愛らしく鳴く。

「アンタ!なんで?買っちゃったの?いつ?どこで?」

「うん…ダメだと思ったんだけど…ちゃんと世話するから」

 頭を抱えるはなであった。

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