第12話 ベランダからの訪問者

「ふぁ~おはよ~」

 奈美の朝は遅い。

 9:00に起床。

 9:30 2度目の起床。


 独り暮らし。

 だけど、2度目の起床で誰かに挨拶する。

 TVだったり、壁だったり、納豆だったりするのだ。

 寂しいのかも知れない。


 この日は窓の外に向かって挨拶したのだ。

「暑い~夏嫌い…」

 ベランダで歯を磨く奈美、洗面台では磨かない。

 寝起きの顔が嫌なのだ、寝起きのスッピンは鏡の国に住む、誰か別の人だと信じたい。

 シャコシャコ歯を磨いて、ぽけーっとしていると。

 こちらに真っ直ぐ向かってくる黒い影。

「カラス?ぎゃあー!」

 寝起きの奈美がカラスと認識するころ、カラスは奈美の頭部を鷲掴わしづかみしていた。

「なによ~!カラスのくせに…鷲掴わしづかみとは!身の程を知りなさいよ!」

 歯ブラシを振り回しながら頭部のカラスを威嚇する。

「アンタなんてねー、何でも食べるフランス人ですら食べない鳥のくせにー」

 奈美の認識では、うさぎ・ハト・かたつむりなどを食すフランス人を食通だとは思ってない。(偏見)

 ただの雑食なのだ、そのフランス人にも食べてもらえないカラスに頭を鷲掴わしづかみとは屈辱なのである。

「お前…昨日より胸無くなってない?」

 パジャマがはだけて丸見えだった。

 ブラジャーはパットを詰め込んで胸を盛る下着であって、形を整えるとかの必要のない奈美。

 寝るときは当然、ノーブラだ。

「あわわわ」

 慌ててパジャマのボタンを止め直す。

 カラスがピョンピョンと跳ねながら部屋に入って行く。

「誰が入っていいって言ったのよ」

 カラスが煙をまとうとはなである。

 はなが、おもむろに冷蔵庫を開ける。

 納豆・豆腐・豆乳。

 冷凍庫はアイス・アイス・マンゴーアイス。

 あとは、紅茶とケーキ・プリン…デザートばっか…。

「お前…早死にするな…」

 はなが奈美を冷ややかな目で見る。

「ほっときなさいよ~!勝手に冷蔵庫開けて!どうゆう教育受けたのかしら」

「英才魔法教育」

「道徳の授業無かったの?他人様ひとさまの家にお邪魔するときは玄関から入りなさいよ!ベランダから入るのは泥棒だけよ!ココ6階よ!」

「いいじゃない…しばらく一緒に暮らすんだし」

「はっ?今…なんて?」

「2週間ほど世話になる」

「なにソレ?」

「親が旅行なの~、桜のトコに行こうと思ったんだけど、断わられたから…行くとこが無くて…夏休みだし、ちょっと小旅行みたいな感じで~」

「桜さんに断られたんだ~ざまみろ!」

「ふん!アタシの魅力が怖かったんじゃない?桜も男だし…」

「こんな、ちんちくりんに手は出さないと思うわ」

「ぺったんこに言われると傷つくわ」

「奈美、お前忘れてないか?アタシが変身できることを」

 どうだと言わんばかりに胸を張るはな

 はなも、ふんぞり返ると、可哀想なくらい胸がない…。

 可能性を残す分、奈美より前向きにともいえるが、まぁ難しいような気がする。

「桜さん…胸が大きい女が好きなの?」

「知らん!聞いたことない」

 アイスを食いながらそっけなく答える。

「知らないの?」

「興味がない。というか好みの女に変身すればいいことだから」

「それは…寂しくない?」


 プイッと奈美から顔を背けてTVを付けるはな


 ………………♪♪………………

「奈美!お腹空いたー」

「納豆食べる?」

「納豆薦められたの初めてー」

「豆腐もあるよ」

「大豆ばっかー」

「炭水化物は無いわよ、ダイエット中だから」

「奈美…胸だけ効果でたの?」

「胸だけは太ったことないの!」

「アイスしかないのー」

「炭水化物を我慢してるから、糖分は許してあげてるの!」

「意味あるの?」

「太ってはいないでしょ~♪」

「うん…薄っぺらい身体…中身も薄っぺらい気がする…薄くて軽い生理用品みたいな女」

「消耗品ってこと?使い捨てみたいな…便利なだけの女ってこと?」

「便利なトコで…お昼ごはん!なんか食べたい!」

「アンタ、魔法でポンッて出せないの?」

「そんな魔法聞いたことない…」

「使えねェ~魔女…役にたたねぇ~」

「魔女なめんなよ!ど貧乳!」

「アンタ、ただで居候する気じゃないわよね?炊事・洗濯・掃除くらいするのよね?」

「客の来ない病院の掃除…意味ある?」

(うっ…)

「洗濯かごにブラがある…ブラの枚数よりパットの枚数が3倍くらいあるんじゃない?Acupにパット3枚入れてんの?」

(あ~…)

「作りたくても、大豆オンリーで何作るの?大豆しか出来ないよ、何?魔法でも無理なもんは無理だよ…魔法は科学の延長だからね…お医者様の奈美さん…解るね?」

(いやー!)


 ………………♪♪………………

「で…ちっこいの連れて来たの?」

「うん…」

 心なしかテンションの低い奈美。

「琴音…なに食べたら、胸大きくなるの?」

 奈美が寂しげな顔で尋ねる。

 琴音はDcup…夏になると際立つ胸が目の得、いや毒だ。

「う~ん…何食べたら…パスタは良く食べるかな~」

 琴音が関係ないか…というより早く

「ナポリタン大盛りください」×2!

 はなと奈美が手を挙げてオーダーする。


「いいコンビだ…」

 ボソリと呟く琴音。

 一回り以上の歳の差を感じさせない凸凹コンビ。

(B-Flat’s…バストフラッターズ、平らな胸達)

 琴音の頭にそんなコンビ名が過った暑い午後であった。

「ふ?」

 といった顔で同時に琴音を見るフラッターズ。

 どことな~く似たとこがある2人の顔。

 口の周りがソースでオレンジ色であった。

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