第11話 魔女っ娘

「頭にネジ刺さってるの?」

「ゴボンッて感じでね」

「ねぇ、で名前どうしたの?」

「うん…保険証無いのは自己責任だけど…診察券に書くとき悩んだの~」

「うん、で名無しにしたの?」

「ん~ん、腐乱犬太郎ふらんけんたろう(仮)」

「あ~…どこで切るの?苗字と名前」

「ん~…考えてなかった~」

「適当ね~」

「ん…仮だからね」

「本人的にはどうなんだろうね」

「喜んでた」

「えっ?」

「喜んでた」

「ホントに?」

「ん…喜んでた」

 コクリコクリと頷き続ける奈美。

 琴音の質問を右から左へ受け流す奈美、本人は今、アイスと格闘中である。

 30分でジャンボアイス食べ切れたら1万円差し上げます。

 奈美の頭より一回り大きい器に盛られたアイス。

 ちなみに店内温度18度。

 奈美の現在の体温はゾンビ並に下がっているはずだ。

 唇が青い…。


「もう止めたら…」

 琴音は寒い店内で暖かいココアを飲んでいる。

「止めない…人間って負けたら…負けだから」

 なんだか解らないことを語りだす奈美…限界は近い。


 ………………♪♪………………

 ぐすん…ぐすん泣きながら歩く奈美。

「3,000円取られた…お腹痛い…気持ち悪い…」

 3,000円は取られたわけではない、料金を支払っただけだ。

 大方の予想通り、失敗したのである。

「アイスが安いアイスで不味かった…味が3種類しかないから飽きた…マンゴー味があれば全部食べれた…」


 琴音と別れて独りで歩く奈美。

 日陰から日陰へ縫うようにフラフラと移動する、警戒心の強い猫のようである。


 8月の終わり…気だるい午後…公園の芝生、木陰でゴロンと寝転んでみる。

「んにゃ~~~」

 意味も無く鳴いてみる四捨五入で30歳(♀)。

「気持ちいい~けど…気分悪い~なんでだろう~」

 独特のリズムで歌いだす奈美。

 そう…予約がないのである。

「奈美先生、お暇ですか?」

「はい、見てのとおりです♪…ん?」

 と視線を声の方へ動かす。

「桜さん?」

 ピョコッと起き上がる奈美。

「桜さんだ~、お散歩ですか?」

「えぇ…天気がいいもので」

「あ~いい傾向ですね♪そうだ…ウチで紅茶どうですか?新作の豆乳紅茶」

「紅茶に豆乳ですか…」

苦柔にがやわらかい味がしますよ」

「初めての表現で、なんと言えばいいか…」

「あ~納豆と一緒に飲むんです」

「大豆摂取率高いですね」

粘臭ねばくさい固形物を、苦柔にがやわらかい液体で流し込むんです」

「表現の問題でしょうか…美味しそうに聞こえないのですが…」


 ………………♪♪………………

 奈美の誘いをやんわりお断りした、桜さん。

 木陰に腰を下ろしてマンゴーサイダーを飲む奈美。

 桜さんプリンシェイクを振っている。

「それ…プリン?」

 軽く日本語が雑になるくらい、興味を惹かれる奈美。

「程よい感じに砕くのが楽しいんですよ…飲んでみますか?」

「はい♪」

 桜さんが飲む前に一口飲んでみる…ヌルンとしたプリンが入ってくる。

甘美味あまうまい~♪」

「気にいったようですね」

 気づけば、全部飲んでしまった奈美。

「あっ…飲んじゃった…どうしよ…コレどうぞ」

 とっさに飲みかけのマンゴーサイダーを差し出す奈美。

(はっ!…間接キス的なアレになってしまうわ…しかも自分から誘ってる風になってる!)

「ありがとうございます、いただきます」

「あっ…でも…まぁいいか…な♪」

 マンゴーサイダーをゴクリと飲む桜さん。

(あ~間接キスしちゃった~♪)

「…とか思っただろ~三十路女」

「三十路…桜さん、今…聞き違いかしら、穏やかなアタシが激しい怒りで伝説の戦士に変身しそうですよ!」

「ホントにキスする?」

 グイッと奈美を引き寄せる桜さん。

「えっ?」

「なんてね」

 完全に肩透かしをくった奈美。

「きゃははははははは」

 桜さんが馬鹿笑いしている。

「桜…さん…?」

「いいかげん気付けバカ…吸血鬼が日向ぼっこするか?バカ」

「あっ!…お前は桜さんじゃない!」

 桜さん(偽)をビシッと指さしポーズを決める奈美。

「うん…そう言っている」

 真顔で頷く桜さん(偽)

「で…誰?」

「アタシは魔女っ娘はなはなちゃんでいいわよ」

 桜さん(偽)はボワンと煙を放ち、一瞬でちっこい少女の姿に。

「おぉ~ぅ…魔女…娘…なんか憧れる~!」

「そ…そう…サインとかしてもいいけど…」

 照れる魔女っ娘。

「何しに来たの?はなちゃん」

「はっ!そうだった…ライバルを見に来たのよ」

 ちっこいので、奈美を見上げてるが、気持ちの中では見下ろしているていで。

「ライバル?なんの?はっ!コスプレね!魔女のコスプレね!」

「コスプレじゃねぇよ!こちとら本家だよリアル魔女だよ!」

「じゃあなによ~」

「恋のライバルよ!」

 ふふん!といった顔の華ちゃん。

「恋?」

「ババアには負けないけどね」

「ババアって…」

 後ろを振り向く奈美。

「お前だよ!」

「大人の魅力を最大限に活かせる年齢なんだよアタシは!」

「大人の魅力…って…どこだ?」

 華ちゃんは奈美の胸を見ている。

 はっ!視線と、その意味に気づく奈美。

 奈美は背が高い165cmいわゆるスレンダーだ、胸もストーンとしている。

「アンタだって胸無いじゃない!」

はなは可能性を秘めている、お前は最大限に活かせる年齢でソレだ」

 ザシッとひざまずく奈美。

(なんとなく敗北感…)

「桜は、はなが人間に戻す!魔力に医者など無力だ!」

 華ちゃんはそう言うと、カラスに姿を変え飛び去った。

(恋のライバル…桜さんの?アタシが…)

 気持ちの整理の着かない奈美であった。

(おっぱいが大きくなる魔法ってあるのかしら…だとしたら!勝てない…)

 どちらかというと、恋心より万年Acupのほうが深刻なダメージになっていた。

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