第10話 花を愛でる大男

「なるほど…」

「そうだったのよ~」

「まぁ、謎はひとつ解けたわね」

「謎って~さ~」

「謎だったでしょ!人類の謎が寄ってくるクリニック自体が謎だったでしょ!」

「なによ~アタシのクリニックを都市伝説にしないでよ~」

「都市伝説がやってくるクリニックって、もう隙間産業の枠を大きく逸脱してるわよ」

 琴音がナポリタンをクルクルしながら口に運ぶ、マッシュルームを上手に跳ねるあたり、じつに手馴れている。

 奈美がふて腐れた顔でクリームソーダをブクブクする。

「ちゃんとお金貰ってるもん」

「不思議よね~経済が成り立ってるあたりが」

「ん?」

 不思議そうな顔をする奈美。

「考えてみなよ!人の社会に溶け込んでるのに、大概の人はソレに気づいてないのよ」

「うん…」

「でも、妙に自己主張強いんだよ!」

「隠れてるような~隠れてないような~感じだね」

「そこよ!意外と近くにいるのに、まったく気づかないコッチが変なんじゃないかって思っちゃう」

「うん…なんか…不思議だね」

「不思議?不気味でしょ!」

「う~ん…不気味じゃないよ~」

 ストローを咥えながら口でプラプラさせる奈美。

「見える人には見える的なコトなのかもね」

 うんうんと勝手に納得する琴音。

「でさ!トマトを私のパスタに放り込まないでくれる」

「ん?」

 奈美はトマトを琴音のパスタにヒョイッと当たり前のようにシェアしていた。

 トマトは嫌いなのだ。

「だって…ナポリタン好きだからトマト好きかと思った」

「食べ物を食材で判断しないで!調理で判断してちょうだい!」

「トマト嫌い?」

「好きだよ!」

 ブスッとフォークでトマトを突き刺す琴音。

(なんで怒るんだろう?)

 なんだか解らない奈美であった。

「すいませ~ん、クリームソーダのアイスだけおかわりくださ~い」

 はぁ~とため息をつく琴音。

「アンタと外食すると、たまに恥ずかしい」

「なんで?」


 ………………♪♪………………

(なぜアイスのおかわりが出来なかったのか?)

 結局押し問答の末、普通にバニラアイスを頼むことで解決したのだ。

 腑に落ちぬ奈美である。

 午後の予約は1件だけ……OKだ!0よりいい。


 が…名前が書いてない。

 どうやら聞き忘れたらしい。

 久しぶりの電話だったからしょうがない、来たとき、おのずと解ることである。

 ドンマイだ。


 が…解らなかったのである。


 ………………♪♪………………

「名前が無い?」

「はい…」

「ご不便でしょうね…お勤めは?」

「花屋を営んでおります」

 大きな耳飾りを付けた大男、顔は傷だらけだが、なんだか気は弱そうだ。

 大男が肩をすくめている、すくめてもデカいものは、デカいのだが。

「普段は、なんて呼ばれてるんですか?」

「フランケンって呼ばれてます」

「フランケン…シュタイン…」

「はい…」

「なるほど…」

 頭に刺さったネジが痛々しい大男、薄々解っていたのだ奈美は…。

 出オチみたいなものだ。

「博士の名前なんですよね?確か?」

「はい…神の名前です」

「神?ですか」

「神です!創造主ですから」

「なるほど…でお悩みとは?」

「悩みというか…お恥ずかしい話なのですが…」

「はい…大丈夫ですよ…御自分のペースでお話しくださって大丈夫ですよ」

 緊張気味の大男を優しく言葉で導く奈美。

「………実は…恋……」

「恋ですかー!はいはい…大好物ですよ♪コイバナね!はいはい、得意です」

 何が得意なんだか解らないが、本人曰く…恋愛相談は得意分野らしい。


 ………………♪♪………………

「なるほど…」

 聞けば悲しくも難しい話であった。

 神は大分前に他界されているわけで…同種族がいない。

 友人は種族が違えどいるのだが、恋人となると異種族は難しいらしい。

 見た目に反して(失礼)花や小動物を愛するロマンチストであり運命的な出会いを求めているがもとい…節がある。


「ゾンビじゃダメですか?…知り合いはいませんが…そのうち知り合えそうな予感はあるんですゾンビ」

 奈美はできるだけ希望に添った種族を思い浮かべたのだが…ゾンビが近似種族のような気がしてならない。

「いえ!私はゾンビではありません」

 奈美の認識では、死体から復帰した種族カテゴリーだったのだが…。

「う~ん…死体を繋げ合わせて電気でBOM!って産み出される生物となると…」

「神は奇跡を起こされたのです」

 胸で十字をきって天を仰ぐ大男。

「ご自身の存在が奇跡とおっしゃるなら、同じ存在を求めることが、どんなに難しいかは、ご理解されてますよね」

「神は約束してくれたのです…必ずパートナーを創造してくださると」

「でも…他界されてしまったと…」

「はい…」


 ………………♪♪………………

「こういうのはどうでしょう♪イタコにフランケン博士を呼び出してもらって、もっかい創造してもらうプラン!」

 奈美の右手の人差し指がピンと立つ。

「できるんですか?」

 大男の目が輝く。

「どうでしょう…あっ!ダメだ…」

「なにがダメなんですか?イタコの知り合いがいないなら探せば…」

「違います…イタコじゃないんです…」

「では…なにが?」

「日本は火葬なんです…死体が…繋ぐお肉が無いんです…燃えちゃうから」

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