第9話 真っ赤なお鼻の長井さん
「奈美…アンタのクリニック、タウンページに載ってないんだよね」
「うそ!…アタシ契約したよ」
「なんか変だと思ったのよ…アンタのクリニック、怪物・妖怪しか来ないじゃない」
「失礼な!……人間だって来てるわ……よぉ~」
語尾がぼんやりしている奈美。
「人間じゃないでしょ!変人でしょ!」
「変人とか患者さんを変態扱いしないでくれる」
「変態扱いはしてないわ、変人扱いしてるだけ」
「変人って…変な人で変人じゃない!他は怪人よ!」
「怪しい人で怪人だよ…そっちのほうが酷くない?」
「うーーー…むーーー…キーッ!」
なんだか解らないが言い負けた奈美が奇声をあげた夏の終わりの午後であった。
………………♪♪………………
「タウンページ…載ってるじゃない…
奈美がサラダササミに、かぶりつきアイスティで流し込む。
「シメは納豆で~♪」
と納豆パックを冷蔵庫から取り出す奈美。
納豆を混ぜながら、黒いタウンページをパタリを閉じて、まぜまぜしているとクリニックの電話が鳴る。
「お世話になってます、Uタウンの
電話の向こうから若い男の声。
「あ~長井さん」
「いや~どうですか?掲載後の効果ありました?」
「おかげさまで、徐々に効果あるみたいで…す」
「そうですか、それは良かった…あ~お電話したのはですね、近くまで来たもので様子をお伺いがてら寄らせていただこうと思いまして…御迷惑ですか?」
「いえいえ…今日は予約ありませんから、よろしければどうぞ~」
「そうですか、では30分ほどしたら寄らせていただきます」
「はいはい、お待ちしてます~、お気をつけて」
………………♪♪………………
ぴんぽ~ん ぽ~ん…。
「お世話になってます、Uタウンの
「はいはい…御無沙汰してます~」
「まぁ紅茶でもどうぞ…まだ熱いですからね~外は」
「えっ…そんなに日焼けしてますか?」
「ん?日焼け?あ~営業さんは、この時期ね、焼けますよね、露出部分が」
「赤いって、そんなにおかしいですか!」
声を荒げる長井さん。
「はっ…い?」
「はっ…いえ…すいません」
「いえ…べつに…どうぞ、アイスティしかありませんけど…あっ!よければ納豆がありますけど食べますか?」
「いや…アイスティだけで充分です!」
なんかキッパリ断られたような…納豆嫌いなのかな~。
「それで、今日はどうしたんです?」
納豆を、まぜまぜ…のびのび…させながら奈美が長井さんに尋ねる。
「あっ…新しいUタウンページをお届けに」
「なるほど…3ヶ月更新ですもんね」
と黒いタウンページを受け取る奈美。
「おかげさまで、掲載してもらってから患者さんも来るようになってですね~」
「そうですか!良かったー、お試しの3ヶ月契約でしたけど、どうでしょうか…今後も継続させていただけませんか?」
「そうですね~、じゃあ1年契約でお願いしちゃおうかな♪」
「ホントですか…ありがとうございます。さっそくですね、契約書のほうを…ハンコありますよね、シャチハタでOKです」
テキパキと契約を進める長井さん。
………………♪♪………………
「いや~ありがとうございました」
「いえ…よろしくお願いしますね~、ところで…Uタウンの“U”ってなんの略なんでしょうか?」
「あ~“U”は
「あんだ~ぐらうんど…地下?」
「そうですね…人外のための情報紙から始めたんですけど…電話帳だけ別枠になったんです」
「じんがい?人以外?人読まないの?」
「読まないことは無いですけど…人間でも購入してる人いますし…」
(なんか解った気がする!)
「どうりで…ね」
ピーンときたのである。
「?」
ん?という顔の長井さん。
「……いですね」
「赤いのが、そんなにおかしいことでしょうか!」
「いや…長いですね…」
「あ~、長いって言ったんですか…すいません」
「鼻…長いですね」
「天狗ですから」
「鼻…赤いですね」
「天狗ですから!おかしいですか!天狗は赤いでしょ!私だってね…好きで赤いわけじゃないんですよ!」
「アタシ…鼻が長くて邪魔そうだな~って見てて~、あんまり赤いことは気にしてませんでしたけど…赤くて長いですね、長井さん」
「天狗ですから…赤くて長いですよ鼻!」
「いいじゃないですか♪トナカイだって赤いじゃないですか鼻」
「トナカイ…鼻赤くないです…」
「ウソですよ~、鼻が赤いからサンタさんに~みたいな歌あったし」
「違います…赤い鼻をからかわれたトナカイがサンタさんの役に立って認められる的な歌です」
「赤く無いの~なんかショック…そうですよね…ピエロじゃないんだから、赤い鼻ってどうかしてますよね~あっ!」
と口を手で塞ぐ奈美。
「赤くて悪いですか!」
顔まで真っ赤になって怒る長井さん。
「あわわわわ…ごめんなさい…アタシ赤いことより、長いほうが変だな~って、あっ!」
と再び口を手で塞ぐ奈美。
………………♪♪………………
「失礼しました…ホントに…天狗に免疫なくて」
「いえ、いいんです…ここは人の街ですから…」
「あっ…また来てくださいね、赤井さん」
「長井です!」
「あわわわわ…」
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