第8話 お面ってどうよ

「奈美…水虫?」

 しきりに足の指をモゾモゾと動かす奈美。

「失礼な!水虫じゃありません!霜焼けです~」

「アンタ…真夏に霜焼けってナニ?」

「ほらっ!」

 と足を投げ出す奈美。

「あ~なんか赤いね」

「でしょ、雪女にピキーンてやられたんだよ」

 表現に擬音が多いのが奈美の会話術である。

「あのね!雪女が突然来てね、エアコン、ガンガンに冷やして、帰るときに溜息ついたら、足元がピキーンってね…それで夕方まで足元氷漬けになって…」

「で、真夏の霜焼け?」

「そうなの!レア体験というか初体験」

 霜焼けの足をモゾモゾしながら、かき氷を食べる奈美。

(アンタのほうが雪女みたいだよ…)

「あっ!…来た…コレ来た…キーンってやつ…」

(急いで食うからだよ…)


 ………………♪♪………………

「予約した濃野こいのです」

「どうぞ~」


「お待ちしておりました………ん?」

 首を傾げる奈美。

「今日…お祭りでしたっけ?」

「いえ…お祭りを楽しむ余裕があれば、カウンセリングなぞ受けません」

「ですよね~…なぜにお面を?」

 濃野さんは、なんちゃら戦隊のお面を被っているのである、しかも『青』の人だ。戦隊でも微妙な位置づけ、面倒くさい奴ポジションである(偏見)。

 スーツで…白い手袋して…帽子を被って。

「日焼け防止的な?フル装備ですか?女子力高めですか?」

「いえ…日焼けとか気になりませんけど」

「真夏ですけど…暑くないですか?」

「暑いですね…しかし…こうでもしないと人に会えないんですよ」

「あ~、極度の人見知りで悩んでいると…」

「いえ…人見知りとかしませんけど…」

(日焼け防止じゃなくて…人見知りじゃなくて…お面って…なに?)

「まぁ…どうぞ…立ち話もなんですし…あっ紅茶飲みます?アイスティでいいですね」

(ニヤッ)と微笑む奈美。


 ………………♪♪………………

「どうぞ…キンキンに冷えてますよ」

(お面を取れ!取らなきゃ飲めないぞ…)

「ストローをください」

(おぉう…そうきたか…)


 チューッと紅茶を吸い込んで…はぁ~と大きなため息をつく濃野さん。

「私…存在感が無いんですよ…」

「えぇーっ!」

 奈美の声にビクッとなる濃野さん。

(インパクト大!開業以来No1のインパクト!)

 何を信じればいいのか解らなくカウンセラー奈美。

 縁日でもないのに、お面装備ってちょっとどうよ…。

 三十路手前でプリキュアコスプレしてた女は思ったのである。


 ………………♪♪………………

「個性が欲しいということでしょうか?」

 奈美は平静を装って濃野さんと向き合うことにした。

「個性というか…もっと自分を見てほしいというか…」

「注目を浴びたいと?」

「そうですね…あっ、でも…自然でいいんですよ、普通に接したいだけなんですけどね」

 お面を取ってみてはどうでしょう?

 言いかけてやめた。

 もう少し泳がせたい…いやいや…なにか理由があるはず。

「濃野さん…正直申し上げますと、お面をつけて人と接して、普通に扱えと言われましても…難しいんじゃないでしょうか?」

 言っちゃった。

「あぁ…しかし取ると、ますます他人との距離が広がる一方でして、私としては驚かさないというか…怖がらせないというか、配慮なんですよ一応」

「顔が怖いとか…そういうことでしょうか?」

「いえ…どうでしょう…久しく見てないもので」

「傷があるとか?」

「無かったですねー、あっても気づかれないですよ」

(面倒くさい…)

「取ってみてもらえませんか?」

「お面ですか…構いませんけど、驚かないでくださいね」

「はい…心の準備はOKです」

「では…」

 濃野さんは、右手でヒョイッとお面を外した……。

「濃野さん……顔ごと取れましたけど…」

 目が点になる奈美。

「いえ…顔は取れてません」

「首がもげましたか?濃野さん」

「もげてませんよ先生」

 奈美の目には、濃野さんの顔が映らない…ていうか…首から上が見えない。

「濃野さん…」

「はい…私、透明人間なんです…」

(そっち系だよ…桜さん系列だよ…)

「昔…科学者だったんですけどね…透明になることだけ考えてたもので…戻るという発想が無かったんです」

「そうですか…」

 頷く奈美…なんか解る気がする、学者という生き物は一風変わった人間が多いものだ(偏見)。

「で…先生…なにかいい知恵ありませんかね?」

「コミュニケーションですよね!戻る方法とかじゃなくて…」

「戻る方法は、今も模索してますので…コミュニケーションに支障を出さない方法です」


 ………………♪♪………………

 奈美は考えた…見れば見るほど不思議である。

 飲んだ紅茶まで透明になるとは…恐れ入る。

 濃野さんの仮説によると、皮膚より内側にあるものは透明になるらしい。

 だから、無駄毛などは視認できるのだ…。

「とりあえず…」

「とりあえず?」

「お面を親しみやすいキャラクターに変えてみましょう♪」

 人差し指をピンと立てて閃いた的な顔をしている奈美。

「なるほど!」

 と濃野さん。


「濃野さん、また様子を聞かせてくださいね」

「解りました…」

 納得したのか?濃野さん。

「ひとつお伺いしても?」

 玄関で奈美が濃野さんに

「なぜ、透明になろうと?あの…軍の機密情報とかだったらいいんですけど…」

「いえいえ…男が透明になりたい理由なんて、ひとつですよ…はははは…」

「なるほど!」

 と奈美。


 ………………♪♪………………

 空のお月様を眺め、梅酒を飲む奈美。

(桜さんって…わりと普通の部類かもしれない…)

 しみじみ思うのであった。

 人面犬…多重人格…雪女…透明人間。

(でかい蚊みたいなもんだもん…)


「あっ!」

 奈美は突然、声をあげた…。

(体毛は見える…けど…髪の毛見えなかった…ハゲ…なのかな…)

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