第5話 リアルハロウィーン

「リアルモンスターとハロウィーンって…どうよ?」

「リアルモンスターだからハロウィーンでしょ」

 奈美が平然と答える。


「怖い…飛び越えて痛い」

「なぜ?桜さん達いい人だよ」

「桜さんじゃないよ…リアルモンスターと一緒にハロウィーンっていう発想のアンタが痛い…」

「そんなことないもん…みんな優しい人だもん…悩みとかLineで聞いてくれるんだよ」

「アンタ…カウンセラーが患者に悩み相談って……」

「ダメかな?」

「ダメでしょ…」

「どうして?」

「風俗嬢がいつの間にか客に貢いでました的な…」

「大丈夫…桜さんにお金払ってるわけじゃないから」

「うん…奈美…」

「うん?」

「長生きしなね…」


 ………………♪♪………………

「で、今日集まっていただいたのは、来週のハロウィーンパーティの件なんですよ」

 桜さん 梅田さん 松下さん

「はぁ×3」

「さて…桜さん」

「はい」

「ゾンビ役、お願いします」

(吸血鬼がゾンビ…軽い屈辱感はなんだろう?)

「そして、梅田さん」

「はい…」

「毛深さを活かして、ビックフット!」

(毛深いってダイレクトに言わなくても…)

「最後に松下さん」

(来たな…)

「ネッシーで!」

(まさかのUMA…)


 一同、え~?である。


「一応、皆さんの特徴を活かして見たんですよ」

 奈美は自身のチョイスに絶対の自信を持っているようだ。

「桜さん…死体です」

「梅田さん、毛です」

「松下さん…見た目の特徴がないので、Best of UMA、ネッシーです」

「先生は…なんの仮装するんですか?」

「アタシは魔女です!」

(ソコはシンプルなんだな…自分だけ)


「それで…メイク等なんですが、イメージをホワイトボードで説明します」

 ガラガラとホワイトボードを押して、奈美がなにやら書き始める。

 絵心は無いようだ。


 ゾンビはメイクと衣装でどうにかなる。

 ビッグフットもマスクと毛布の加工でどうにかなりそうだ。

 問題はネッシーである。

 ダンボールでネッシーを作成するらしい、奈美プラン。


 ご丁寧に待合室の隅にペンキとダンボールが置いてある。

 ホワイトボードの絵から想像するに、2足歩行のようだ。

 青くて短足のキリンというか…なんだか生理的に気持ちの悪い絵が設計図の全てのようだ。

「さぁ…作りますよ!」

 グッと右手を突き上げる奈美。

「おう…」

 いささか気の無い返事であった。


 ………………♪♪………………

 5日間…ペンキにまみれ…カッターやら針やらで絆創膏だらけになり、衣装を作成したのである。


 ハロウィーン仮装パーティ…はしゃいだのである。

 奈美が…。

 戻った頃には、ネッシーの首が無かったくらいに夜の街は楽しかった。

 満月でなかったことも幸いした。


 とりあえず乾杯して、しばらく話して次回を約束して解散となったのである。


「片づけ手伝ってもらってすいませんね、桜さん」

「いえ…いいんです、家近いし、夜型ですし」

 テキパキ動くゾンビ。

「ダンボールは2人が持って行ってくれたんですね」

「そうですね、帰りに捨てるって言ってました」


「楽しかったですか?」

「えぇ…久しぶりに笑った気がします」

「そうですか…良かった」

「え?」

「いや…皆さん、悩んでらっしゃったから…」

「カウンセラーに来るくらいですからね」

「桜さん…笑ったほうがいいんですよ」

「……はい……」

(もしかしたら、奈美先生は、こうして治療していくつもりなんだろうか…)

「何事も笑えばいいんですよ、大概のことは、自分が思ってるほど大袈裟なことは無いんですよ」

 窓から月を眺めながら…ほうきを持って、しみじみと呟く奈美。

「奈美先生は、皆のために、こんなことをしてくれたんですか?」

「…いいえ…着たかったんですコレ」

 奈美の衣装…プリキュアの衣装…。

「憧れだったんです。プリキュア…子供の頃から、今も毎週観てます。でも着る機会が無くて…ハロウィーンならって思ったんです」

「奈美先生…おいくつ…」

「桜さん!時の流れの残酷さはアナタが一番御存知のはず!」

「すいません」

「紅茶いれましょうか…」

「強制なんですよね」

「はい♪」

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