第4話 桜さんアゲイン
「でね…多重人格なんだって…意外と普通だった」
「普通?多重人格って普通じゃないでしょ」
「いや…吸血鬼から狼男で…多重人格だと、なんかトーンダウンというか」
「奈美、あんたの本領発揮ってどこ?」
「どこというか…う~ん、本業って言えば本業なんだけど…いきなり多重人格はハードル高いというか…」
「モンスターより?で?どうしたの」
「催眠療法を試みたわ」
「ふんふん、で?」
「うん…アタシ催眠術できない人だから…」
「うん」
「事前に、鏡の前で催眠術が出来る!って催眠術をかけたの」
「自分で自分に…」
「そう!」
「で?」
「かからなかったのよ~」
「アンタが?」
「いや、松下さんが」
「うん、だからアンタも自己催眠失敗したんだよね」
「結果そうなる」
「そうよね…催眠術できないんだから…自分にもかかるわけないよね」
「…上手くいくと思ったのよ。というか自信はあったのよ」
「根拠のない自信は相変わらずね~」
「松下さん…リピーター無理かも…」
「指名されてナンボだもんね」
「本指名!…アタシ
(なんでテンション上がってんの?この娘)
「今日は桜さん来るんだ~」
「吸血鬼の桜さん?リピ客になったんだ」
「うん♪」
「夜のカウンセリングだね~」
「そうだね~」
「でも桜さん、80歳だっけ?」
「うん…でも見た目20歳だから…永遠の20歳だから」
「その話がホントだったら、噛まれてみたいわね」
「うん…確かに!歳取らないわけだし、今日、聞いてみよ!」
「軽いわね!」
「待ってられないのよ!老化は止まらないのNon Stopなの」
「奈美が太陽とサヨナラする勇気があれば止めないわ」
「…考えてみる…月だけで生きていけるのか…相談してみる…」
「アンタが?客に?プライドないの?」
「うん…色々と諦めてるから…結婚とか…出産とか…玉の輿とか…」
「そうね…現実って…ツライよね」
「うん」
四捨五入で30歳の2人……。
「裏切らないでね」
が約束ではなく、すでに呪いに変わるお年頃である。
………………♪♪………………
「お待ちしてました~」
「すいません…こんな時間で」
「いいんですよ、お気になさらず…紅茶いれますね」
「あ~、お構いなく…強制でしたね」
「はい♪アタシ紅茶好きなんで、今日はオリジナルブレンドのフレーバーティですよ」
「どうぞ、召し上がれ」
「頂きます」
「どうですか?」
「そうですね~何味と表現し難い味ですね」
桜さんの表情から察するに…美味しいとは思えない。
「どれ?アタシも………なるほど…ウーロン茶が余計な気がします」
「ウーロン茶ですか…紅茶に…入ってるんですか?」
「はい…紅茶の枠を広げてみようとチャレンジしたんですが…でも…紅茶としてはダメでも…ウーロン茶としてはどうでしょう?」
「ウーロン茶としたらハーブが余計ですよね」
「桜さん。引き算しかしない性格がよくないんですよ」
「…はい…」
桜さん絶句である。
紅茶批判のカウンターが正確否定とは…油断できない。
「今日は桜さんにお伺いしたいことがあるんです」
「なんでしょう」
「アタシ…吸血鬼として生きていけますかね?」
「……はい?」
「いや…だから…吸血鬼を60年近く続けている経験からですね~、アタシが吸血鬼としてやっていけるか聞いてるんですけど」
「そう言われましても…先生のこと、良く知りませんし…そもそも向き不向きとか考えたこと無かったもので」
「なるほど…アタシのことが知りたいと…もっともですね、こうしましょう、桜さんがアタシの話を聞いて性格を分析してください」
まさかのカウンセラーの性格分析を素人に一任とは…。
「フリートーク形式でいきますよ」
「えっ?本気ですか…私の話は…」
「なにかあれば遠慮なくぶち込んでください。フリートーク形式ですから」
………………♪♪………………
フリートークは2時間に及んだ…その大半を奈美がしゃべり倒していたが…。
「で…どうでしょうね?アタシやってけそうですかね?」
「いや…なんとも」
「そうですよね~、もうちょっと考えたい気持ちもありますし…もう少しお互いを知ってから答えを聞きます」
「そうですか…あっ…でも…軽はずみに死んではいけませんよ。1度死ぬわけですから…」
「桜さん!そうは言っても時間も無いんですよ!今日のアタシは、昨日のアタシより老化してますからね、確実に!呑気に待ってて年増の吸血鬼って意味ありますかね、不老の意味!」
「すいません…真剣なんですか?」
「前向きに検討してます」
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