釣果

夜釣りをしていた。


霧雨が降ってきてしまう。


ああぁ、と思う。


水だけのバケツを見つめる。


後ろを何人も通り過ぎる。


みな釣りを諦めたのか。


小さな折りたたみイスが尻に刺さるようである。


ぐっと冷えてきた。


はあぁ、と思う。


憂鬱になる。


竿を引くものはない。


もう餌を撒く気も起きない。


みな帰ってしまったのか。


霧雨が小雨に変わる、ポタポタと肩が濡れる。


だめか、と思った。


そこで竿がにゅうにゅう、と揺れた。


ぐうと釣り上げると、枕ほどもある大きな蛞蝓であった。


塩水に蛞蝓とは不思議である。


ぬらぬらと粘液が光る、緩慢に身をうねらせる。


バケツに蛞蝓を入れた。


すると蛞蝓は角を震わせながら言うのだ。



「おや、あんた、俺を釣るのははじめてか」


わたしは、ああ、そうだ。ナメクジなど初めてだ、と言い返した。


「ほうほうそれは大したこった。」


意味の解らないことを言う蛞蝓である。

バケツから粘液を吹きながらこう続けた。


「俺を釣ったということは、あんたも、ってことさ。

これに懲りたらこんな寂しい雨の日に釣りなんかしないこった。」



そういうと蛞蝓はそれきり黙ってしまった。

持ち帰るわけにもいかず、そのあたりに打ち捨ててきた。


雨でずいぶん濡れてしまった。

風邪をひかぬうちに引き上げることにする。













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