2.仏法僧

砂利道にて



 ハンドルが汗で滑りそうになっている。

体は暑いが、手先はひどく冷たい。

エアコンの噴出し口を、直接顔にむかないようにした。

甘くないコーヒーを買うべきだったと、今は思う。


 もう数分で着くだろう。

そろそろ舗装路は終わる。

着けば、汗が拭える。

着けば、首元のシートベルトから開放される。

着けば、外の空気を吸える。

着けば、体を伸ばせる。


 深夜である。

仏法僧が鳴いている。

木立が風でゆれる

男がその山の中深くで荷物を、降ろした。


 

 裾も靴も泥だらけだ。

鋭い草葉で指を切ってしまった。

爪に泥が入ってしまった。

でも、あとは、一人で帰るだけだ。

家に着いたら、水を飲もう。

着いたら、手を洗おう。

着いたら、エアコンをつけよう。

着いたら、シャワーを浴びよう。

着いたら、布団をひこう。

着いたら、薬を飲んで眠ろう。


 できるだけ、考えないようにしよう。

そう思った。



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舞台の中央で、“男”が台詞を語ります。

傍らには一抱えくらいのごみ袋があります。


台詞を終えると、袋をそのままにして下手へさがります。

舞台の明かりが消えます。



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