1.猿噛梍について

山辺のはなし


☆御婆さんがこんな話を教えてくれたの。

家の裏山の雑木林に、大きな大きな木があって、

それはかみさまのほこらなんだって。

けもののほこらなんだよって。

けものっていうのは山に住んでいる動物のことで、

むかし、猟師がそのお弔いを、

その大きな木にお願いしたんだって。


☆はぁ、祠ですか。

知りませんねぇ…うーん。

ふうん…ううむ、いやぁ、そんなものは…ないですよ、ええ。

うーんそうですねぇ、とにかく山に入られるなら気をつけてくださいよ。

いえ、山で妙な人を見たって話が多くて。

ええ、はぁ、妙といっても、まぁ、おそらく釣り人か何かでしょう。

実は私も一度だけ見たことがありまして。

詳しくですか、ううむ、詳しくといっても…汚い男がですね、

川の中の岩で、こう…白い棒みたいなものいくつも洗っていただけですよ、

釣り具かなにかでしょう、ええ。




☆ほこらぁ?知らんねぇしらんしらん。

はい?あの山にぃ?さぁどうだか。

獣ったってそんなもの出やしない。今はただの山ですわい、やぁま。

でも、あーぁ、あれだぁ、あのぅ、梍があるわな、サイカチ。

ひぃじいさんによく脅かされたわな。

そらぁでかい梍の木よ、まだしっかりあるわいな。

あれは、ああと、あんだっけ…あぁ、思い出した。

猿だか鹿だかをとって食うんだと。

まあぁ、いやぁ子供だましよぉ、そんなもの。



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誰もいない舞台があります。

中央には三枚の面が置かれています。

上手から“人物”がそこへ進みます。


順に、“子供の面”“壮年の面”“老爺の面”

それぞれをつけ、台詞を語ります。


台詞を終えると、下手へさがります。

舞台の明かりが消えます。

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