1.柳居橋について

雨宿り


ざざざざざざ、ざざざざざ、ざざざ。

柳居橋は一丈余りの短い小橋です。

岩がちの沢に掛けられていて、伸びた草で茫々と茂っています。

そばに柳の木がありますから、きっとそれが名の元なのでしょう。

ざざざざざざ、ざざざざざ、ざざざ。



初老の男の話です。


ざざざざざざ、ざざざざざ、ざざざ。

えへぇ、その日は丸一日、ずいぶんと強く降っておりまして。

それはまぁ傘の端からはねた雨で肩が濡れるほどでございます。

して、その女ですがね。

もう夕刻になろうとしていた頃でしょうか。

苔と雨でどうもすっ転びそうで、へぇ、足元ばかり見ておりました。

ええ、日暮れも近くて薄暗かったのを覚えております。


ざざざざざざ、ざざざざざ、ざざざ。

橋を渡ろうとしまして。

女の下駄が見えたところでやっと気づいたのでございます。へぇ。

えぇ、いえ…向こうは会釈をして立ち止まったのです。

顔はよく見えませんでぇ、

ですがね、傘を差しておるのに髪と肩がずぶ濡れで。

そしてこう聞いてくるのですよ。


「もし、そこのお方、煙草をお持ち?」


煙管はやりませんし、なんせ気色が悪うございます。

ええ、へぇ…そうでございます。持ってない、と、えぇ。

そしたら女は、…ええと、なんと言ったか。

まぁそれなら仕方がない、失礼する、だいたいこんな返事で、へぇ。

私が見聞きしたのはこれくらいでございます。


ざざざざざざ、ざざざざざ、ざざざ。

着物ですか…ううむ、水浅葱の付け下げ…ですかいねぇ。

柄は…うーむ、確かではございませんが、海老茶の花枝か何かかぁ…。

なんせ強く降っておったもんですから。ええ、よくは見えませんで。


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下手から“初老の男”が中央へ進みます。

舞台に会釈をして、台詞を発します。

ひょこひょこと身振り手振りを交えます。

台詞が終わると再び会釈をして、下手へもどります。

舞台の明かりが消えます。

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