第34話 そんなに好きだったの?

 俺は、猛烈にキレている。実際そんなに怒ってないけど。どっちだ。

とにかく、何とかしてほしかった。いい迷惑だし、マナーがなってない。


世間は、一世の『ポケ〇ンgo』一色。

どこもかしこも『ポ〇モンgo』

歩きスマホとかではなく、もう特定の場所に大量に人が集まっている。

池袋駅内から外に出ていくのが一苦労だし、そこからサンシャインに向かうのも、中池袋公園行くのも、反対側の西口の公園に行くのも、連日『ポケ〇ントレーナー』でいっぱいだ。


話に聞くと、西口の公園は、以前ホームレスが多くいたが、今ではトレーナー達によって居場所が無くなっているらしい。


俺は、やっていないから、ちんたら歩かれると途轍もなくイラつくし、ぶつかられた時なんて、般若の形相だ。

ワイのボールでゲット(拉致監禁)すんぞ!

おっと、自重自重。


中池袋公園も連日大変な賑わいだ。

スマホをいじりながら煙草を吸っていると、goしているように見えてしまいそうで、なんとなく居心地が悪かった俺は、吸い場所を無くして、幽鬼にように彷徨さまよっていた。


ここ最近、気軽に入れる飲食店で、喫煙できるのは滅多に無い。

マクドナルドも完全禁煙。

いいとこ飲み屋しか吸えない。

ラウンドワンの下にあるサイゼリヤが分煙措置取っていた気がするけど、そもそも、ファミレスに一人で長居できるほど勇者ではない。

基本、『おひとりさま』が多い俺だけど、一人で席を占領するのは場所を選んでいる。


さて、そうなると困ったことに、煙草を落ち着いて吸う場所がない。


どこに行こうとしても、ポケ〇ンgoしている人だらけ。

今までどこにこの量のポ〇モントレーナーが潜んでいたのかと思うほどにだ。


「仕方ない…、最終奥義を使いますか…」


中池袋公園から徒歩2分ほどだろうか。

有名立ち食いステーキ屋と、BARの隣。

喫茶店がある。

どうしても落ち着く場所がない時は、ここに来る。

ではなぜ、『最終奥義』なのか?

それは『俺にとって、単価が高いから』

ただそれだけである。

できれば安く済ましたい貧乏学生の俺からすると、喫茶店なんてものはお高くて堪ったもんじゃない。


「何か月ぶりかねぇ、コンビニのコーヒーで十分な舌しか持ってないんだけどなぁ」


一先ず《ひとまず》財布を確認。

注文ができるだけの金額はあった。


シックな制服に身を包んだお姉さんが、席まで案内してくれた。

とりあえず、メニューを見ながらまず一服。

普段からそうなのかは知らないが、割と人は少なかった。


空調も効いていて、なおかつ静か。

まあ、雰囲気はやはり最高である。

煙草も気持ちよく吸える。

こういうところで、安い煙草を吸いたくはない。という、いかにも庶民らしい考えが身をもたげてくる。


葉巻とか吸ってたらカッコいいんだろうな。

生憎、そんな金も持ち合わせてはいないので、最近の相棒『echo』ちゃんの2本目に手を出す。


注文が決まったので店員さんを呼ぶ。

「濃厚ガトーショコラと、ドリップアイスコーヒーください」


店の奥から店員さんの話し声が聞こえる。

談笑しているらしく、そういうバイト先に少し憧れがある俺は、会話をBGM代わりに、外を眺めながら煙草を吸う。

高い金を払ってるおかげで、随分と気分はいい。

2品注文して、1000円近く払うとか、普段の俺からすれば信じられない。

その1000円あるなら、全て鉄拳にぶち込むところだ。

まぁ、そんなことしてるから友達少ないんだろうけど。


頭の中で、独り言を言っていると、案外早くに注文の品がやってきた。

ここの店では、「アイスコーヒー」と注文すると、「ドリップか水出しか」と確認されることが多いが、基本その差異がよく分からない俺からすると、「安いほうで」という心の声が混ざっている。

つまり、「ドリップ」一択なのだ。


割と広い席を、一人で占領しつつ、コーヒー片手に煙草を吸う。

合間に持ってきていた広告系の就活ガイドを流し読み。

バイトの募集や、企業の就活生に向けた記事などを読むのが割と好きな俺は、時間があれば、こうしてぼーっと流していることが多い。


傍から見れば、意識高い系の学生に見えなくもないが、灰皿に溜まった煙草の吸殻が、それを邪魔する。

むしろ、フリーターにしか見えないかもしれない。

必死に就職先を探してる人だろう。


煙草は年齢を推測させるだけに、色々と気を付けないといけないが、そもそも気を付けるような行動を取るべきではない、というね。


ただ、この考え方も、自意識過剰というものなんだろけど。


ひとしきり吸いきって、灰皿にも吸い殻が溜まり、背を伸ばして休憩を入れてると、食後に頼んでいたガトーショコラがやってきた。


煙草とコーヒーで苦みが染みついた口の中に、一切れ切って咀嚼そしゃくする。


恐らく、普通に食べるよりも甘く感じているだろう。

おいしい。


時間をかけずに、一気にガトーショコラを食べきる。

基本的には、量があるなら無限に食べていられるが、少なければ一気に食べてしまうのが常だ。


カップに残ったほんの少しのコーヒーを飲んで、会計に移る。

正直、また煙草が吸いたくなった。

喫煙者なら分かってくれると思うが、食後に、少しだけ残ったコーヒーとかを飲むと、また吸いたくはならないだろうか?


静かだった店から外に出る。

もう夕方だというのに、相変わらず熱い空気と、そこらじゅうにいるgoユーザー。


「流石に今日はこのまま帰るか」


喫煙所には寄らず、まっすぐに池袋駅へと帰宅の足を延ばした。




今日の喫煙所教訓【たまには落ち着いた空間で吸うと、よりリフレッシュできる】

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