第33話 遠い日の夏

 大学生にとっては色んな意味で決めにかかる時期、夏。

高校生たちは予備校に行ったり、学校の講座に出たり、割と勉強に忙しい夏かもしれない。

社会人の人たちは、相も変わらず忙しそうに働いている。そろそろクールビズ解禁だろうか…


バイトも大学も休みの完全オフ日。

家にいるのもなんだしな、と、例に漏れず池袋へ。


ふらふらとサンシャインの方へ歩く。

やっぱり来るのは、中池袋公園。

コンビニで水を買って、喉をゴクゴク言わせながら一気に飲む。


「ほら、帽子被らないとダメだろ?」

「暑いよー。お父さんも被ってないよ?!」

「お父さんは大人だからいいの」

「えー?!」


お父さんとその息子さんだろう。

なんとも微笑ましい会話だ。


「Y輔、知ってるか?お父さんが子供の頃の7月にな、昔の外国の偉い人が予言して、【恐怖の大王】っていうのが降ってきて、地球が滅亡するって話が合ったんだ」

「恐怖の大王ってなに?!怖そう…」

「ああ、お父さんも、降ってくるって言われてた7月、おじいちゃんと一緒に空を見てたよ」

「それで?降ってきたの?!」

「お父さんな、外でずっと空を見てたんだよ。そしたらいつの間にか倒れてな。おじいちゃんが助けてくれたんだよ。倒れてたから、恐怖の大王が降ってきたかは分からないなぁ」

「えー?!」

「もしかしたら、降ってきたから、お父さん倒れちゃったのかもしれないな」

「お父さんやばいじゃん!」

「帽子被ってなかったからね。Y輔はしっかり帽子被った方がいいぞ?」

「帽子被って、お父さん守ってあげるよ!」

「そうだな。よし、お母さん迎えに行こうな」


そう言うと、その親子は駅の方面に向かっていった。


さっきのお父さんの話からして、俺とほとんど年齢は変わらないだろう。

高校卒業して、すぐに出来たお子さんだろうか…


懐かしい話題をしていたもんだ。

俺も親父と、『1999年7月、空から恐怖の大王が降ってくる』という『ノストラダムスの大予言』を信じて、一緒に空を眺めていた。


親父は煙草を吸いながら、俺を肩車して、

「どうだ?!見えるか?!」

なんて、俺よりテンションが高かった気がする。

仕事している時は、怖くて近寄り難い親父も、休日は誰よりも子供だったように思う。


親父が煙草を吸っている姿が大好きだった。

大人に見えたし、格好良かった。


俺が成人した時、煙草を真っ先に買った。

咳き込みながらも気合で吸い切ったのを覚えている。


親父と、煙草の煙の匂いを吸いながら見上げた空は、今日よりも遠かった気がする。


煙草片手に、俺の手元から空にゆっくりと昇って行くマルボロの煙。


「親父が吸っていたのは、ラッキーストライクだったかな」

そんな当時を思い出したとある夏の日だった。




今日の喫煙所教訓【煙草は、自分が随分遠いところまで来たのだと、懐古させる】

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