第31話 浮気
俺にも、どうしようもない時はある。
いつもの相手とは違う相手を選んでしまう時もある。
iいつものアニメイト前の公園で、俯きがちに俺は立っていた。
見つめる先にはお金が全然入っていない財布。店に行ってもいつものは選べない。
でも、どうしても吸いたい。
吸って、吸って、吸い尽くしたい。
我慢して帰る方が体に悪い。
許してくれ。
俺は今日、いつもの相手でもなく、キープの相手でもないのに手を出す。
「echo、ください」
黄色とオレンジのパッケージ。普通の煙草よりも短い長さの葉巻。
タール15mg、ニコチン1mg。20本入り。
値上がりを経て、250円から280円になった。
俗に言う「安い煙草」は他にも「わかば」や「ゴールデンバット」「しんせい」などがあるが、これらは「旧三級品」と呼ばれ、煙草の葉を商品化する際に余った葉や、低級の葉を寄せ集めて作った物だ。ゆえに、安い値段で提供できるわけだ。
旧三級品の面白いのは、元々が「クズ葉」を集めて作られた煙草のせいで、包装はビニール。コンビニなどの店頭に並んでいる頃には必要以上に乾燥していたりするらしく、程度によっては味が変わるとか。
初めて吸う俺には、そのあたり分からなかったが、果たして真相は如何に…
チープな包装を解いて、1本くわえる。
火をつける前に匂いを嗅いでみたが、鼻にツンっと来る。
正直、話に聞いていた通り、「美味しくなさそう」だ。
火をつける。
煙を肺に入れる。
煙を吐きだす。
うん、確かに美味しく…
いや、美味しくはない。
それは同意する。
けれど、そんなに言うほどか?
恐らく、何回か吸っていればそこまで気にならなくなる位だ。
マルボロやLARKを吸ってる人だったら、慣れていくんじゃないかな?
案外、悪くないぞ。
ただ、
「あ、吸いきるの早っ」
あっという間に燃えてしまうのが残念だ。
ただでさえ短いのに、ここまで早いと本数が進んで、普段より余計にお金かかるんじゃないか?
と思っていると、
「アッツ?!」
吸い切ってしまうまで、もう少し余裕があるのに、持っている指に火の熱が直接来た。どうやら、紙の質もそんなに良くはないらしい。
吸っていて思うのは、
「金の無い人間」だって思われるんだろうなってこと。
そういう人が買っているイメージが俺の中にはある。
偏見かな…
当面はechoちゃんをキープにしようかと思うけれど、そんなことがマルメンちゃんとpallmallちゃんにバレたら、見向きしてもらえなくなるかもしれない。
何を言ってるんだ、俺は。
ここまでの中で、ランク付けをするならば
「嫁・マルボロメンソール」
「浮気相手・pallmall」
「✖✖✖・echo」
といった感じだ。
我ながら酷い言いぐさだ。
まあ、こんな事言う前に、リアルの彼女が欲しいんだけど…
初めて吸った旧三級品の煙は、変わった味で、でも嫌いじゃなかった。
「安い煙草を吸っているからって、安い男にはなりたくないなぁ」
そんな独り言を言いながら、煙をゆっくり吐き出す帰り道だった。
今日の喫煙所教訓【案外悪くなかった旧三級品。人によるけど人間何でも慣れ】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます