第23話 同世代の実情

 俺と同世代、というか、同年代の大学生は、『就活』というものに精を出す。

当たり前だ。普通なら大学4年か、もしくは既に就職している人間だ。

羨ましい限りだ。俺は、大学生という身分が、あまり好きではない。

早く独り立ちしたくて仕方ない。


恐らく、大多数の意見は『大学すらまともにこなせない人間が、社会人なんて出来る訳がない』というものだろうが、そういうことではない。


『大卒』という肩書きを手に入れ、その他課外的活動や個人的な勉強をするのに、ここまでお金がかかるのか、という漠然とした疑問。


「卒業後の人生において『安定』を手に入れるための先行投資」

「目先のことだけに囚われるな」

そんな言葉も聞き飽きたといって過言ではない。


早く社会に出たかった。

高校卒業で働き出す人たちを尊敬し続けた3年間。


浪人を含めれば、5年間。


無為に過ごしてきたつもりは、さらさら無いけれど、自己承認欲求が満たされない毎日。

ふと、そういった感情に浸ってしまう日もある。


中池袋公園で相も変わらず煙草を吸っていると、スーツの男性2人がやって来た。


「今日の面接どうだったの?」

「すげー変な質問されたわ。『あなたを物に例えると何ですか』って」

「とっさに出てこないなぁ、それ。何て答えたの?」

「製鉄」

「え?」

「製鉄」

「……、何で?」

「熱く、叩かれて、強くなるタイプです。厳しい環境にこそ、身を置きたいと思ってます。って」

「スポコンタイプって感じ?」

「そうそう。陸上部だった、って言ってあったからか、割とすんなり受け入れてもらえたけど、本当に頭真っ白になったよ」

「そういう頭の回転とか、機転というか、柔らかさ?凄い苦手。よく答えられたな」

「もう、今までで1番汗かいた」

「だろうな」


就活活動って、そんなことも聞かれるのか…

まだ経験してない俺は、ネットのまとめとかで見たことがあるだけで、実際に聞かれたという話を初めて聞いた。


友人と大喜利を遊びですることはあるが、実際に面接の場で聞かれたら、確かに冷や汗ものだ。

「あー」、とか、「えー」、とか言ってしまう自信がある。


「そういうお前は内定決まったんだろ?この間。おめでとう」

「ありがとう。面接、完全に舐め切ってたけどな」

「あー、なんだっけ、その話」

「面接中に、『私』って言えなくて、ずっと『僕』連発してた」

「聞いたとき、マジで笑った」

「あとは、指導科目に生物が無いのに、『生物が高校の時から苦手です』って言っちゃって、『当校には無いので構いませんよ』って返されたりとか」

「傍から見てたら完全に『下調べゼロ』って分かるな」

「一応、二次面接で挽回できる質問があったから良かったけどな。たぶん、そこでの掴みが良くて決まったな。その時も『僕』って言ってたけど」


凄い話してるぞ。

俺の中の就活イメージだと、どう考えても『お断り』の連絡が来るものだと思った話の内容だが、そんなことも無いのか…

未来は明るいようだ。

日本の夜明けも近いかもしれない。


うん、自分で言っていて意味が分からない。


この時期の喫煙所では、就職活動生に多く遭遇する。


たまに口が緩い人が来たときは、会話中に企業名を出してしまう人もいるから、本当にやめた方がいい。


俺みたいな人間がこうやって書いてしまうから。(いや、企業名は伏せるけども)


就職してからも煙草を吸うだろうけれど、喫煙所で仕事の話はしないようにしたいなって思うのは、どこの誰がこちらの会話を聞いてるか分からないからだ。


こうして、今日も偶然ながらに就活の内情を聞いてしまった訳だし。


こちらとしては、生の声を聞けるから、大変有難いけれど。


それにしても、一人称を『僕』で通して面接って受かるものなんだな。

話からして、教職だと思うけど。

面接官って言うのはどこを見てるのか分からないものなんだな…


来年には、順当に行けば俺も就活生になる。


家に帰るまでが遠足、では無いけれど、家に帰るまでが面接。

と、思っているから、企業様の喫煙所で煙草を吸う勇気が今の俺には無い。

実際は吸っていいのかもしれないけれど、果たしてどうなんだろうか…


きっと、あっという間に4年生になる。

あっという間に卒業する(はず)。


『何か僕の将来に対する唯ぼんやりとした不安がある』

そんなフレーズが頭をよぎりながら、煙草の煙を吐き出した。



今日の喫煙所教訓【喫煙所で、自社や企業の内情等を話してしまうのはお勧めしない】

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