第22話 よくある話の最多例では?
喫煙所に来て、煙草を吸おうと思ったら、ライターを忘れた、もしくは、ライターから火が出ない。なんてことは、喫煙者なら誰でも1度は経験したことがあると思う。買いに行くにも、近くにコンビニが無かったり、ライターにお金を使いたくないってこともあるから、大体が近くの人に借りることになる。
気のいい人だと、そこから会話に発展することもあるが、これまた大概がその場で貸し借りして終わる。
疲れている時に、見ず知らずの人と会話する余裕なんてものは無いからだ。
田舎ならまだしも、都会では『我関せず』の風潮があるから尚更かもしれない。
中池袋公園で煙草を吸っていると、喫煙所の地面に飲みかけのペットボトルがいくつか捨てられていた。
誰もが避けて、喫煙している。
どんな人が飲んだかも分からない物だし、仕方ないと言えば仕方ない。
見た目悪いけど。
吸い終わったら、ゴミ箱に持って行こう
と考えながら吸っていると、足元を確認しなかったのか、吸い終わった男性が、喫煙所を出るときに蹴っ飛ばしてしまった。
「んだよ!ちっ!」
足に少しかかってしまったのか、悪態をつきながら出て行った。
さすがにこのままでは気分が悪いと、ゴミを代わりに捨てに行くことにした。
煙草を途中で止めてしまったので、再び喫煙所へ。
煙草を取り出し、火をつけようとするが、何度ライターを回しても火が出ない。
「すいません…。火をもらってもいいですか?」
「あ、いいですよ。どうぞ」
「すいません」
喫煙所にいた女性に火をもらった。
「さっき、こぼれてた飲み物を捨ててきた方ですよね」
「え、あ、はい。さすがに、この後の人が同じようにならない保障も無いですし、こっちも見てて気分は良くないですし」
「私も、どうしようかなって考えてたんですけど、いざやろうとすると躊躇しちゃって…」
「自分のやったことじゃないのに、何か人の目気にしちゃいますよね」
「そうなんですよー」
こりゃびっくりだ。
こっちから話しかけることはあったけど、話しかけられることは無かった。
しかも相手は女性。
仕事ならまだしも、見ず知らずの女性と話す機会なんて長らく無かった。
一瞬声が詰まったくらいだ。
「学生さんですか?」
「そうです。今年で大学三年です。歳は23なんですけどね」
「あら、同い歳。私も今年で23ですよ」
「奇遇ですね。それにしても、社会人が羨ましいですよ。俺も早く働きたいです」
「えー、ほんとですか?私はずっと学生でいたかったなぁ」
「自分で生きていくって、すごい憧れるし、尊敬ですよ」
「そうですか?」
「ええ。やりたい仕事に就けるとは限らないけど、就活が楽しみです」
「すごいですね。私は早いところ寿したいですよ」
「ぶっちゃけますねぇ」
「本音ですもん」
「飲んでます?」
「しらふです」
と彼女はクスっと笑いながら言った。
この人ならすぐに結婚できるだろうな、と何となく思った。
愛嬌ってのに男性は弱いから。
まぁ、彼女のいない俺が言っても説得力無いけれど。
喫煙所で知らない人と話してここまで楽しかったのはすごい久しぶりだ。
しかも同い歳。
好い時間を過ごさせてもらった。
えっ?その後進展とか、何かしらあったかって?
そこまでコミュ力高くねぇよ…
今日の喫煙所教訓【意外とライター借りると仲良く話せる(こともある)】
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