第15話 いや、あなた、それでやれてるの?

 スマホでクオリティの高いゲームができるようになって早数年。

かく言う俺もスマホでゲームをしている。多くはないけれど。

持っているスマホが比較的新しい物のおかげで、処理スピードも高い。

快適にゲームをすることができているわけだが、基本ゲームをする際は、他の作業はしない。集中したいからだ。


今日も今日とて、中池袋公園。

喫煙所には大きな木が植えてあって、木の根の周りを石が囲ってある。

そこでは座って煙草を吸っている人がいる。

それは別に構わない。俺はそれを邪魔だと思ったことはないからだ。

が、今日は邪魔だとか、そういうのではなく、純粋に疑問を抱いてしまう様な人がいた。


ラウンド○ンの帰り、中池袋公園に煙草を吸いに来た。

アニメ・ゲームのグッズ交換をしている女の子たちをボーっと眺めながら、

喫煙所で煙草を吸う。


すると、石段に座って煙草を吸っている男性がいた。

くわえ煙草でスマホをいじっている。

まあ、一見するとスマホをいじっているのに集中しているだけなのだが、スマホの向きが縦ではなかった。


横向きだったのだ。

しかもイヤホンをしている。

指の動く速度が尋常ではない。早すぎる。


明らかに、リズムゲームをしていた。


いやね?煙草を吸うのは分かる。(喫煙所だもの)

リズムゲームをするのも分かる。(楽しいよね)

けれど、それはどちらか片方の時だけだ。


煙草吸いながらリズムゲームはあり得ない。


煙で前が見えなくなるわ、灰が溜まって気になるわ、目に煙が入ってそもそも画面が見えないわ。どうやってゲームしてるんだ、この人…


後ろからしか見ていないが、もしかしたらこの人は音だけ聞いて譜面を打てるのかもしれない。画面の大きさも全て計算されていて、目をつむっていてもperfectが出せるのかもしれない。


ただ、誰が見ても灰が落ちそうなところまで来ている。

絶対落ちる。

画面のタップする振動で絶対落ちる。


と思ったら、彼は膝の上に素早くスマホを置くと、右手で画面をタップし始めた。指の動き方が気持ち悪いことになっている。

そしてそれと同時に、左手で煙草の灰を落としていた。

流れるような動作で口元に煙草を戻すと、再び両手でタップし始めた。


「いや、もうどうなってんのよ…」


1曲何分なのかは知らないが、見ているこっちは物凄く長く感じる。

とにかく、煙草の灰が落ちそうだし、なにより、もう吸える部分がほとんど無い。


「いやいや、もう吸い切っちゃうよ?」


と思った矢先、どうやらゲームも終わったらしい。

煙草を口から離して、足元で消した。

この人は、煙草が燃え尽きる時間と、ゲームが終わる時間がほとんど同じだっていうことを知っていたんだろうな。

じゃなかったら、こんな遊び方なんできない。

まぁ、リズムゲームのスコアがどうなっているのかまでは見てないけれど…

これで本当にperfectとかだったら、正直そのゲームの大会があったら、間違いなく優勝だ。


数年前、とある漫画で『空中にゲーム機を投げた状態で、指1本だけで格闘ゲームのボスを倒す』っていうキャラクターがいたけれど、それに匹敵するレベルだと思う。(そこまでじゃない)(けどすごい)


見てた俺が緊張したわ。

と思っていると、

「あっち?!」

俺が、ゲームをしていた人を見るのに必死で、灰を落とすのを忘れていた。

思い切り手元に落としてしまった。

この、地味に驚いて、1人であたふたする格好といったら、なんとも恥ずかしい姿なことで…


正面からゲームしてる様子を見たかったなぁ、と

腕に落とした灰を払いながら、ぼんやりと考えていた。



今日の喫煙所教訓【煙草を吸う時は、灰の溜まり方に注意しましょう】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る