第13話 なんでここにいるのさ

 家の近くで煙草を吸う時は、ウェットティッシュや飲み物を用意してから吸うようにしている。


それはなぜか?


理由は至極簡単だ。吸うことを許可されていないからだ。

23歳になって、煙草や酒の類に、親の許可が必要な程に、我が家では厳しい教育がなされている。

それでも吸いたいものは吸いたい。

ならばどうするか?


ばれないようにするしかない。


家の近くで吸う時は、コンビニで手を洗い、水で口まですすぐ。


ただ、池袋にいる時は、全く気にしていない。親は来ないからだ。縁のない場所。堂々と吸える。


だからこそ、ここまで書いてこれたわけなんだが…

忘れていたわけではない、と言っておくが、完全に油断していた某日。


大学からの帰り、少しばかりラウンド○ンで鉄〇をしてから帰ろうと、池袋で降りる。相も変わらず人が多い。

2クレ(100円を2回投入した)だけプレイして、5勝1敗。俺としてはかなり良い戦績だ。意気揚々とラウンド○ンを出たのは良かったのだが、そのまま池袋駅まで帰ってきてしまった。


「あ、煙草吸うの忘れてた」


別に吸わなくても問題があるわけでは無いけれど、折角気持ちよく勝ったし、煙草も吸って、気分よく帰りたかった。


普段はそこまで使わない東口駅前の大きな喫煙所も、今日ばかりはオアシスに見える。吸ってすぐに帰れる場所に喫煙所があるなんて、最高じゃないか。

くらいに思ってしまった。


喫煙所で早速マルボロメンソールを取り出す。

買ったばかりだから、本数にもかなり余裕がある。


口にくわえて、火をつける。

肺の奥まで煙を吸い込む。

「ふぅーー」

最高の気分だった。

勝てなかった試合の敗因を考えていても、ちっとも嫌な気分ではない。


「今日は気持ちよく寝れるなぁ」

「何してんの」

「えっ?!」

余韻に浸っていると、突然横から声をかけられた。

「お前さ、煙草は社会人になってからだって、約束したよな?」


真顔でこちらを睨む父親が、そこにはいた。


「あ、いや、」

「『いや、』じゃねえよ。何で吸ってんだよ」

「何となく吸いたい気分で、買いました」

「前に言ったよな?学生のうちから、嗜好品に手を出すなって」

「はい…」

「それでも吸った?」

「はい…」

「とりあえず、それ箱、よこせ」

「はい」

「もう、次見つけたら、ただじゃ済まさないからな」

「はい、すみません」


コペルニクス的転回並みの気分の変わり方だ。

まさか、普段は乗り換えでしか使ってない親父が、池袋で煙草吸っていたとは…

というか、なんでよりにもよって、俺が吸っている時なんだよ!

わざわざ東口使わなくても、乗り換え口の近くに喫煙所あるだろ!そっちでいいじゃん!全く理解できない…


見つかってしまった以上は、しばらく禁煙期間を設けるしかないだろう。

長くて2週間くらいか?1週間では短すぎる。

両親そろって粘着質というか、神経質な性格をしているから、今日のことを両親とも知れば、俺がいない間に、部屋や荷物を漁ることは平気でしてくるはずだ…


「頭が痛い…」

思わず口に出てしまった。


「当たり前だろ、煙草吸ってたんだから。頭痛かったりするってことは、体質に合ってないんだよ。やめろ」

「あ、はい…」


見当違いだが、あえて言い直す必要はどこにもない。

触らぬ神に祟りなし。それでいて、ごまを摺ってもいけない。

わざとらしく接してはいけない。

普段通りに、けれど、少し反省したように口数少なめで…

(こんなことを言っている時点で、どこをどう見ても反省していないんだが…)


結局、買って2、3本しか吸っていないマルメンを没収されてしまい、煙草も半分以上残っていたが、捨てる羽目に。


上がってたテンションは、180度回転し、地を這うレベルだ。

やっぱり、東口前の喫煙所には行くんじゃなかった。

自業自得ではあるけれど…


これから、2週間近く禁煙するとなると、確かにお金は少し浮いて良いかもしれないけれど、その代わりにストレスがガンガン溜まっていくこと間違いなしだ。

もう、この一服が習慣化しているがために、無くすとリズムが変わってくるというか、本調子が出ないというか…(世の喫煙者は、こうやって喫煙を正当化していくんじゃないかな)


煙草の煙を吐き出す代わりに、溜息ばかりが漏れる帰り道となった。



今日の喫煙所教訓【喫煙を、『家族の約束として』許されていない若者諸君は、親類が居そうな所では、なるべく吸わないようにしよう】

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