第12話 趣味の悪い吸い方
中池袋公園には隣接して某ホテルが建っている。
少し距離こそあるが、喫煙所から十分入り口を見ることができる。
つまり、そのホテルに出入りしていくお客さんたちを眺めながら吸うことも可能だ。
1時期俺の中で、バイトまでの微妙な時間を潰すのにやっていた時の話をしよう。
当時、コンビニの夜勤前で、少し早くに池袋に着いてしまい、それでも行きたくなかった俺は、例に違わず公園の喫煙所で煙草を吸っていた。時刻は夜の8時過ぎ。
数人の学生と思しきグループがお酒を飲んだのだろう。かなりのテンションで騒いでいた。
「これから2次会行く人ー!」
「「「はーい!」」」
仲いいことだ。羨ましくないと言えば嘘になるが、これからバイトということもあって、割とテンションが下がっていた俺は、そんなことはどうでもよかった。
と、ぼーっとその集団を眺めていると、1組の男女が喫煙所の前にやって来た。
「でも、さっき話してたじゃん。なんでダメなの?」
「だって、いきなりとか、恥ずかしい」
「俺しか見てないし、ちゃんと秘密にする。本気なんだよ」
「う、うーん…」
会話の途中から聞き始めたが、どう考えても『アレ』の交渉である。
まあ、いかにも大学生の夜の会話だ。
男の子の話からして、2人は付き合っているわけではなさそうだ。
付き合う目前なのか、そういう話で盛り上がって、
「してみようよ」
となったのかは知らないが、なんともお盛んなこって…
「な?絶対楽しいから。〇〇が××で△△になって◇◇にしてみせるよ?」
「えー、言い方やらしいよぉ…」
なんだ、お前ら。
そんな話を外でしてて恥ずかしくないわけ?
と、度々世のカップルに対して言いたくなる時があるが、今回のもそれと同じだ。
これは、俺の尊敬する教授の書いた本に載っていた言葉だが
『「〇人と付き合ってきた/〇人と関係を持ってきた」とさも自慢か、英雄譚のごとくに語っている人を見ると悲しくなる。』
とある。簡単に書いたがその前後にはもっと深いことが書いてある。
『1人と長く付き合うことができない、というのは、結局のところ、相手のことを考えてやれてないからだ。自分の世界に他人を入れることを苦手としているのだろう。本当にもったいない』
凝り固まっては、今後の人生において、『もったいない』ことが多くあるだろうと、いろんな話を聞いて、色々思っている身としては、なるべく人の助言や意見は、1度咀嚼しようと心がけている。
などと、いかにも高尚なこと(そんな事は全く無い)を考えている反面、
「この2人はどんな××をするんだろう」
と、ゲスの極みな考えを展開していた。
最早、煙草を『吸う』というよりも『ふかし』ている状態だった。
口から煙を『吐き出す』というよりかは、『漏れ出ている』状態だ。
なんともだらしのない、締まりの無い顔だ。
交渉はまだ続くか、と思われたが、どうやら決着がついたようだ。
もといた集団に戻っていった。
「なんだ、結局何もしないんかい」
完全に若者をおちょくるおっさんだ。
1本目が吸い終わってしまい、どうしようか悩みながら集団を眺めていると、
大学生たちは解散してしまったようだ。
バイトが始まるまでまだ40分くらいはある。
さすがになぁ…
とりあえず、もう1本吸うことにした。
スマホをいじりながら、時間を潰す。
中途半端な時間の潰し方をすると、スマホをいじるのも面倒になってくる。
こんなことなら、ラウンド○ンで鉄〇でもすればよかった…
と、もうそろそろバイトに向かおうかと喫煙場所から立ち上がると、
「あれ?」
さっき見かけた男女がちょうど俺の目の前を通り過ぎた。
さっきの集団と帰ったんじゃなかったっけ?
周囲を気にするようにキョロキョロとしながら、2人は某ホテルの前の公園の生垣に座った。
もしかすると、もしかしちゃう?
どこから見ても、俺は不審者か、ストーカーだった。
当然、向こうは俺のことなんて覚えていないが、何となく2人の視界に入らないようにして見てみることにした。
お互いに何かをコソコソと話し合っている。
これは、どう考えても…
俺の予想は的中した。
2人は、そそくさと夢の国へ旅立つべく、いかがわしい雰囲気の看板の横を入っていった。
「キターー」
心の中で、悪魔がささやく。
台詞的には誰が聞いても棒読みだっただろうけど。
バイトの休憩中に同僚に話すネタができたな、と、悪趣味全開でテンションを上げ、最初のバイトで憂鬱だった気分はどこへやら。
うわさ好きのおばさまよろしく、足取り軽く夜勤へ向かった。
今日の喫煙所教訓【喫煙所にいる時は、他人の会話や様子を盗んではいけない。どこかの誰かが火傷をする】
※どう考えても、俺が悪い
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