第11話 その時のがっかりといったら…

 ここまで読んでいただいた方は分かるとは思いますが、基本、俺は『抜けてます』

実は、周りからは『しっかりしてる』とか言われることが多いけれど、

実際はかなり『抜けてます』


サン○ャイン通りの前、ロッ○リアの前にある喫煙所で、珍しく吸っていた時だ。


大学もバイトも終わり、さて帰宅だ!と、締めの1本を吸おうと箱を開けた。

すると、キリがよく最後の1本だった。


この、帰りに吸おうとした時に、最後の1本だった時のちょっとドキドキするような

それでいて、ものすごく残念なような…俺だけ?


箱から出して、ライターを探す。

スマホを見ながら吸おうと思い、1度煙草をくわえる。

スマホをポケットから出して画面を点ける。


おもむろにライターで火をつける、が、

「あれ?つかねぇ」


火はすぐについたのだが、吸い込んでも燃え広がらない…

味もおかしい。

というか、先が見たことがない燃え方をしていた。


「あっ!やべっ!」


よく見たら、煙草を逆にくわえていたようで、フィルター側を燃やしていた。

最後の1本で、1日をきれいに締める予定が、完全に不完全燃焼してしまった。

もやもやが半端じゃない。


何度箱を確認しても、結果は変わらない。

ひっくり返しても煙草は出てこない。


「最悪だ…」


外出していて、口に出して言葉を発するなんて、本当に滅多な事がない限りはしないが、今回ばかりは手で顔を覆うジェスチャーつきでリアクションしてしまった。


こういうのって、本当にがっかりする。

おそらく、今年始まって以来の、1番のショックだ。


そんな様子を見ていたのか、サラリーマンが半笑いで近づいてきた。

「やっちゃった?」

「完全に、やらかしました」

「見てすぐに、何したのか分かったよ。疲れてる時ってたまにやるよね」

「お恥ずかしい限りですわ」

「もう無いの?」

「締めに吸おうとしたら、まさかの最後の1本で…」

「赤マルでいいなら、1本あげるよ?」

「…いいんですか?」

「ちょっとかわいそうだったからね。顔を手で覆ってたし」

「本当、ありがとうございます!このまま吸わず買わないで帰ってたら、恋人に振られた時と同じくらいに立ち直れなかったと思います」

「さすがにそこまでとは思わないけど…。まあ、気にしないで吸ってくれていいよ」


そう言われ、マルボロの赤を1本受け取った。

普段吸っているマルボロのメンソールとタール数は同じだが、メンソール分が無いだけあって、喫味は重く感じる。それでもやっぱり根幹の味は変わらない。

吸いやすい。


「このために生きてますわ…」

「学生さんでしょ?発言が俺らと同じだよ」

「結婚でもしない限り、やめることは無いです」

「あとは、1箱1000円になればやめるかな?」

「それ、絶対にやめない人の発言ですよ」

「間違いない」


基本的に、〇〇円になったらやめる、と言っている喫煙者は、辞めない人の方が多いだろう。何だかんだで買ってしまうと思う。

深刻な病気ににでもならない限り、可能性は低い。


「いや、本当に助かりました。これで気持ちよく帰れます」

「気にしないでいいよ。これから帰り?」

「はい」

「煙草無いなら、コンビニで買ってあげようか?」

「えっ?そこまでしていただくのは…」

「学生はお金ないでしょ。煙草吸うのも安くないでしょ?」

「まぁ、そうですけど…」

「ここは、俺の顔を立てると思って、な?」


この人は、酔っ払っているのだろうか?

そんな様子は見受けられないんだが…


「昔、俺も学生だった時に、知らないサラリーマンの人に買ってもらったことがあってさ。いつか自分が社会人になって、困ってる子がいたらやってみたいと思ってたんだよ」

「そんな親切な方がいたんですね」

「昔は今よりもずっと安かったからね」

「あぁ、確かにそう聞いたことがあります。にわかには信じられないですけど。駄菓子と同じですね」

「懐かしいな!駄菓子!長らく買ってないなぁ。今度駄菓子や探してみるかな」

「意外とあるところにはありますよ」

「期待して探すよ」


コンビニに入り、本当に煙草を買ってもらった。

こんなに親切な人が、池袋にいらっしゃるとは…

というか、嗜好品の類を奢るなんて、人生この先無いと思う。


「それじゃ、お疲れ様」

「はい。今日は本当にありがとうございました」


バスに乗って帰っていく後姿に深くお辞儀をして見送った。

喫煙所に来た時とは大違い。

煙のように軽い足取りで帰りの道に着いた。



今日の喫煙所教訓【煙草の恩は忘れるべからず】


※煙草の正式名称は『マールボロ』ですが、本作では、作者が実際に言っている名前で書かせていただいております。

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