第3話 シガーボックス
俺は池袋が大好きだ。
というのも、新宿や渋谷ほどハードル高くは感じないし、少しごみごみした雰囲気が居心地が良い。目的が近しい人間が集まってる。サンシャイン方面は俺の庭だと言っても過言ではない(過言だ)
こう書くと、大学も池袋周辺なのか?と聞かれることがあるが、そんなことは全く無い。嘘偽り無く、そんなことは無い。都内でも田舎にある大学に通っているわけだが、実家が池袋から帰りやすいという、ただそれだけでよく行っていた。
あまりにも毎回のように来ていたら、気付いたら好きになっていた。
年明けが近くなった今日は、特にバイトも無く、かといって予定も無く、手持ち無沙汰を埋めるようにラウンドワンに行く。
というか、池袋に来ると必ず鉄〇をしに行ってる。
つまり、いつもと何も変わらないということだ。
気が済むまでレバーとボタンを連打して、ストレスを発散し、さて帰ろうかと、駅まで歩く。
歩いて気付く。公園を通り過ぎてしまってことに。
「あー、やっちゃったよ…。今から吸うために戻るのも面倒だしなぁ。仕方ない」
普段は使わない、サンシャイン通りに入る前、交差点付近にある小さな喫煙所を使うことにした。ここはバス停が近く、喫煙所自体も小さいため、そこまで人数が入らない。すると、その外で吸い始める人が出てくる。
喫煙者としてのマナーが守れない人間と吸うのは、随分と肩身が狭く感じるから、基本的にはここで吸いたくは無いのだ。
時刻は夜8時になろうか、といったところ。
喫煙所に向かうと、人だかりができていた。
「あぁ、今日はなにやってるんだ?」
ここの喫煙所の前あたりでは、よく大道芸やマジック、路上ライブを行う人が多い。
特にこの時間帯は、帰りの人と、これから遊ぶ人が入れ違いになる時間帯のせいだろう。人が多い。
煙草を吸いながら、喫煙所の壁の隙間から覗いてみる。
「それでは、そこのお姉さん、カードを1枚引いてもらえますか?」
「これで…」
「それでは、周りの人と自分だけに見えるように見せてください」
「「あー、」」
「それでは、質問していきます」
なるほど、引いたカードが何かを当てていくマジックらしい。
マジックは好きだ。俺が単純って言うのもあるんだろうけど、基本的に見ていて凄いと感心してしまう。
さらに言うなら、俺は手先が不器用だから、尊敬すら覚える。
「「おぉ!!」」
どうやら、マジシャンは引いたカードを当てたらしい。
流石だ。
喫煙所から、拍手を送らせてもらった。
すると、
「そこの喫煙所のお兄さん、もしよかったらマジックに参加してくれませんか?」
「えっ?」
ぼーっと見ていたのを見られていたのか、向こうから喫煙所内の俺に指名が来た。
一応、周りの人にも目線を送ったが、本当に俺らしい。
「まじか」
「マジです」
周りからも、笑い声が起きる。
嫌な空気では無い。
「仕方ない。ガン見しちゃいましたし、ご使命とあらばご協力します」
「もっと気楽でいいですよ」
「すんません。少し緊張します」
「大丈夫ですよ。とあるものを貸していただきたいだけですので」
「何でしょう?」
「もしよかったら、喫煙所の奥にいるお兄さんもどうですか?2人いると助かるんですが…」
「私ですか?」
後ろを見ると、スーツ姿の男性が、やはり煙草を吸いながら驚いた顔をしていた。
もちろん、全く知らない人。
とりあえず、貸してもらいたいものというのは、俺とサラリーマンさんの共通物だった。
そう、煙草だ。それも、箱ごと。
俺らからそれぞれ中身の入った箱を受け取ると、早速マジックを始めた。
「そちらのお兄さんは、マルボロメンソールですか。結構タール数ありますね」
「これじゃないと、ダメなんですよ」
「結構吸ってますね。それでは、今、私の右手に中身の入った煙草の箱。左手には同じ位の大きさの白い箱があります。この中には、何も入ってません。そしてー」
サラリーマンからも煙草を受け取る。
「なるほど、赤LARKですか。煙草って感じですよね」
「喫煙者ですね?」
「昔ですよw」
なるほど、禁煙成功者か、このマジシャン。
「それでは、この3つの箱を使ってシガーボックス、つまりジャグリングをしていきたいと思います。2人とも買ったばかりのようで、重さがあって良かったです」
確かに、買ったばかりのじゃないと、中の本数が少なくて、ジャグリングができる状態にはならない。偶然だよ、な?
「この3つの箱をジャグリングして、最後にはお互いの煙草の中身を入れ替えます」
嘘だろ!さすがにここまでの衆人監視の中で、今、細工をする時間なんてあったか?
まぁ、手元を見てなかった俺が言っても意味無いが…
「では皆さん、手拍子をお願いします!」
観客の手拍子に合わせて、マジシャンはジャグリングをし始めた。
シガーボックスと、煙草のシガーって関係あるのかなぁ、なんて
「はい!できました!よろしければ、1本箱から出してみてもらえませんか?」
「了解です」
「わかりました」
俺たちは、半信半疑で箱を開ける。取り出す前に匂いを買いでみると、
「ん?」
何か、いつもと匂いが違う。
「それでは、皆さんに見えるように、1本出してください!」
2人で、せーのっ、と1本引いて上に掲げた。
1番前のお客さんにはしっかり見えたようだ。
「変わってる!」
「すげぇ!まじ?!」
「実際に変わってるか、奥の人に確認してもらいましょう」
そういうと、何人かのお客さんが俺らのところまで、やってきて、代わる代わる確認した。
「2人とも協力ありがとうございました!2人にも拍手を!」
そういうと、大きな拍手が俺たちを包んだ。
「なんか照れくさいですね。貸しただだけでこれって」
「ですよね」
喫煙所に戻ろうとすると、
「あ、待ってください。ご協力のお礼に、どうぞ」
と渡されたのは、新品のマルボロメンソールと赤LARKだった。
「えっ!?」
「うっそ!?」
「はい、これで今日のショーは終わりです!ありがとうございました!」
今日1であろうほど、大きな拍手が巻き起こったのは、言うまでも無いだろう。
まさか、喫煙所でマジックに参加することになり、挙句にもう1箱手に入ることになるとは全く思ってなかった。
というか、そんなことよりも、なぜ最初から吸っている銘柄が準備されていたのかってことが疑問だ。用意していたのがたまたま同じだったのか、用意したものを吸っている人を選んだのか…
たまにはここで吸ってみるのも面白いのかもしれない。
今日の喫煙所教訓【意外と、煙草も捨てたものじゃない】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます