第2話 煙か、悲しみか

 一年で、おそらく最も某ホテルが稼ぐ日。

幼い子供たちは、赤い洋服を着た白髪白ひげのおじいさんにプレゼントを貰えるように、いい子で早くに就寝する日。

そう、世はクリスマス真っ盛り。ついでにカップルも真っ盛り。

全くもって、面白くない。八つ当たりする友人もいないし、かといって、一人ですることも特にない。

相も変わらず、池袋のラウンド◯ンでゲームをする。

ガンゲームをカップルでやってる連中を横目に、隣に並ぶプリクラに並ぶカップルを忌々しく見ながら。


ラウンド◯ンを出ると、イルミネーションできらびやかなサンシャイン通りに出る。

皆が楽しそうな、幸せそうな顔をして歩いている。


そんな人たちから見れば、俺の顔は随分としけた面構えだろう。


周囲の雰囲気から逃げるように中池袋公園と足が向かう。


実は、この公園の向かい側には某ホテルがある。

カップル御用達ホテルだ。


「全く、どこに行ってもカップルだらけだよ…。俺のSAN値はゼロだよ…」

喫煙所で相棒のマルボロメンソールを吸う。

煙が目にしみたのか、悲しくて涙が出たかは、考えたくない。

周りを見渡すと、スーツのオジサマたちが疲れた表情で、俺と同じように煙草を吸っていた。きっと、独り身なのだろう(完全に思い込み)


皆が幸せな日を支えるべく、人知れず頑張って働いている戦士たちの姿が、ここにはあった。


もし、俺にコミュニケーション能力、というか、ほんの少しの勇気があれば


「今日もお仕事お疲れ様です。よかったら、私に今日という日にお仕事をされてるあなたを労わせてくれませんか?」

と、飲みに誘いたいくらいだが、生憎、そんな度胸は無い(ビールも飲めないし)


心の中ではしっかりと労わせていただいておりますとも…


気付くと、箱から一切の煙草が無くなっていた。


「買いに行きますか…」


財布の中身を見ると、400円しか入ってなかった。

相棒を買うには60円足りない。


「よりによってこの日に、浮気をするとは…。許せマルメン」


向かいのコンビニに400円を握り締め、お金が無い時の浮気相手を注文する。

「pallmallの赤、1つください」

「ハイ、400円になりマス。ありがとうございまシタ」


400円でマルボロメンソールに近いタール数を得ようとする時は、必ずpallmall(ポールモール)を頼む。

ニコチン10mgのレギュラー。メンソールなどのフレーバーはついていない。

アニメでいえば、次元大介が愛煙していることで有名かもしれない。

少しばかり苦味の強いこいつは、なかなか燃えにくく、しっかりと吸わないと進まない。つまり、一服が長い。もちろん、pallmallより長く吸える煙草は他にもあるが、この値段で買えるベストとなると、他には知らない。


浮気相手のpallmallを手に持って再び喫煙所に戻る。

「ほんと、なんだってこの日に…」


一年前の今日、遠距離で付き合おうかと、以前からお互いに話していた女の子がいた。その子とは頻繁に連絡を取っていたわけでは無かったが、もともとこちらが実家で、年が明けたら帰ってくるとのことだった。

それを聞いた俺は、安心してしまい、少しずつ、連絡する回数が減っていった。

「こっちに帰ってくるってことは、きっと付き合ってくれるってことなんだろう」

そんな驕りを持ってしまった。


そして迎えた12月25日、SNSの投稿に

「彼氏と1ヵ月記念です!」

と、彼女と一緒に知らない男性が写った写真が何枚も投稿された。

何が起きたのか、全くわからなかった。

急いで彼女に連絡すると、

「連絡が来る回数が減ってたし、もう好きじゃないんだと思った」

とのことだった。

完全に甘えていた。

面倒な男だけにはなりたくない、というなけなしのプライドを何とか振り絞って

「おめでとう!お幸せに!」

と、メールを送るのが、限界だった。

後はもう、お察しの通り。


聖夜、クリスマスに、深く煙草を吸う。

「ふぅー」

長めに吐いた煙と俯きに顔を隠して、独り、理由を考えないようにしながらも、

涙を流す日となった。


今日の喫煙所教訓【辛い時は、煙に感情を混ぜてしまおう】

















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